投稿日: Jun 28, 2010 10:46:33 PM
読書体験のデジタル化の意味が何かと思う方へ
6月25日(金)Kixプレセミナー2 「iPad、Kindle、EPUB…電子出版にまつわるフォーマット議論の先に何があるか」 #kix0625 全般についてはサー ビス化するコンテンツビジネス に記したが、登壇2番目のソシオメディアの川添歩氏は、「サービス化するコンテンツビジネス 」に書いた電子書籍を介して読者の振る舞いをクラウドで共有する話の他に、「書籍とは何か」に関していくつかの指摘をした。iPadなどの話題ではeBookに関してインタラクティブなマルチメディア作品の話もされるが、95%は静的なテキストであろうといった。これは「できる」と「そうする」の違いのようなもので、例えばDVDでもインタラクティブなゲーム的なことができる機能があっても、そのようには進化せずビデオと同じような使い方になったことを思い出す。書籍も静的であることに役割があるのだろう。
書籍はデジタルになっても出版されたらコンテンツが固定化され永続的なアクセシビリティがあることになり、マーキングや引用が保障され、情報共有になるのだとの意見である。だから版元の役割はそういった意味のクオリティコントロールにあり、特定バージョンの長期提供をすることだという。そこにWikipediaのようなソーシャルな編集と、プロの編集者の違いがあり、同じ原稿であっても一定時間をかけて編集校正してから第1版を出す紙の書籍に対して、Wikiなどはアクセスするたびに更新されているかもしれない。だからWikiの部分参照というのはできにくい。第2版…改版についても同じで、出版は版元と言うがごとくバージョンコントロールが重要である。
そこで読者の読書体験の共有化もこのような前提の上に成り立つ。Kindleなどの読書端末は、ハードやOSというプラットフォーム層の上に、ユーザインタフェース層、プレゼンテーション層があって、そこに購入コンテンツがある階層構造であるが、さらにその上にユーザのマーキング、メモ、しおりなど読書経験や履歴を記録するユーザコンテンツ層があると考えればよく、これは紙の書籍では利用者個人にしかわからないものが、クラウドを介した電子書籍サービスで外部化できるようになる。Kindleは専用端末でもiPadアプリでも同じようにユーザコンテンツ層が扱えるが、専用アプリ化した電子書籍はプレゼンテーション層以下とコンテンツが一体化しているので、他のデバイスの読者とユーザコンテンツの交換はできない。
電子書籍のビジネスが人手を介しないことで効率的なサービスになるにはクラウドの利用が重要だが、クラウド上にコンテンツと、またユーザコンテンツ用のアプリケーションを置けるような仕掛けは、今のところKindleしかないのではないか。当然すべての書籍がそのようになるべきだといっているのではなくて、初版だけで売り切り書籍も多いはずだから、クラウドを意識しないローカルな作り方もある。が、それは電子書籍にしたからといって、何かプラスアルファがあるわけではない。
一方で読書体験を共有するという面倒なことを人はするのだろうかという疑問もあるだろう。これはまだ共有のアプリケーションが殆ど無い段階で判断はできないが、そもそも人々が本の貸し借りや贈呈・お勧めをするのは、意見交換のためであるのだから、そのような機能が電子書籍で付け加わるのは自然に思える。