投稿日: Oct 31, 2014 1:1:29 AM
前職で印刷産業の近未来予測などという調査をする際には、得意先業界とか、日本人のライフスタイルに影響を与える先進国の近未来予測のレポートを集めて分析することもしていたし、参考になりそうなところを国内外ヒヤリングして歩いた。その中で最も参考にするところがなかったのが日本の出版業界であった。つまり出版業界自体が近未来予測をしていなかったのである。日本にも出版学会などは存在して個人としてはそういう調査研究をしている人は居るものの、業界団体が近未来業界ビジョンを話し合って定期的にまとめるということはしていなかった。
こういう産業の近未来ビジョンはたいていは所轄官庁が行政指導をするために、シンクタンクに調査依頼することが多かったのだが、日本の経済産業省は出版業界のことなど問題にしていなかった。それは出版社の上場企業が少なかったことも理由のひとつだろう。官庁としてはやはり製紙というような巨大ビジネスの方に目が向いて、最終プロダクツの世界は小さすぎるのだろう。コメの生産は関与しても食堂には関与しないのが官庁だと考えればよい。
近年デジタルとネットの時代になって出版売上げが通信サービスとか知財権のライセンスビジネスのようなところに絡んできて、3省懇のように官庁が縄張りの線引きを話し合う機会が生じて、急に電子書籍の市場規模が云々などという話も出てきた。しかしそもそも出版の近未来予測がたっていないのに電子書籍の予測もあったものではないと思う。そういうことは抜きにいろんなところから出版業界の動向に対するネガティブなコメントは出るようになっているが、多くは基本的な問題が切り分けて論じられていない。
つまり、1.グローバルな問題、2.日本社会固有の問題、3.既存出版社の問題、というのは相互には関係していない。1はネットでメディアが多様化しタダ化した領域が広がるのは世界共通のことであって、これに文句をつけてもしょうがない。日本の法律でどうなる問題でもない。
2は日本の少子化による人口減少からくる構造変化で、国内市場だけのビジネスは皆同じように下降していて、対象を若者に限定すると市場はもっと小さくなるし、簡単に上向きにはならない。つまり成長戦略は護送船団のように共通化したものとはならず、他メディアとのコラボとか海外進出など個別企業の課題になる。
3.は日本の主要出版社の高齢化の問題が大きく、利益が出ない最大の要素は高賃金過ぎることからくる。角川とドワンゴを比べてみても社員が若ければビジネスとして十分に成り立つところはある。また企画面でも社員高齢化は市場とのギャップを生んでいる。
古い革袋に今の出版ニーズを詰め込もうとすると破れてしまうということだろう。新しい革袋のことを大雑把に考えると、ネットでタダ化する部分はプロモーションに活用されているし、クロスメディア化で企業の戦略は個別化していて、そこにはいろんな可能性があるし、採用面を見直せば収支もとれるのが今後の出版であろう。私から見ると何の問題も無いように思えるのだが…
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