投稿日: Jul 19, 2012 5:52:11 AM
メディア環境はまだまだ変わると思う方へ
AppleのiPhoneは近年で類を見ない大成功話になった。数年のうちに世界を席巻したかのように見える。しかしちょうど今が世界的にモバイル化が爆発的に進む時期なので、その潮に絶妙のタイミングで乗ったのがiPhoneであったといえる。携帯電話の数は60億に達したといわれ、世界の人口が70億であることを考えると、もう飽和である。台数の8割は発展途上国で使われている。iPhoneは全携帯電話のうち5%のシェアをとっているといえる。これをAppleは5年で成し遂げたように見えるが、Newtonあたりを起源と考えると、その前に15年の前史があることになり、決して急に湧いてでたものではない。
Steve Jobs をAppleから追い出したスカリーの時代にスタートしたNewtonは、Steve Jobs の復帰後は一旦は全否定されたのだが、当時彼は日本のゲーム機に目を留めており、SonyのPSPを直接のアイディア源として設計をあたためていたと思われる。事実PSPを製造していたfoxconnにiPhoneなども発注するようになるのだから。ただ彼はゲームではなくPSPのようなコンピュータを新しいライフスタイルに位置づけることを思案していたはずである。
Newtonに対してはWindowsCEが少し遅れて発表された、似たようなものにも思えるが、どうしてApple はiPhone とかiPad という形のコンセプトや設計になったのだろうか? これはSteve Jobs とMSではあたためていたものが違うからである。WindowsCE は「EXCELファイルは開けるのか?」といったMSOfficeに引っ張られた設計になるし、WindowsPhoneも同様なのだが、ビジネスシーンで顕在化している用途に縛り付けられている。Jobsがあたためていたのはデバイスの仕様ではなく、それを使った新しいライフスタイルであったはずだ。つまりラジオ、TV、レコード、CD、Videoなどの登場で人々の暮らしがどうなったかである。
Jobsはメディア論を語るひとではなかったが、彼のプレゼンには時々メディアの新陳代謝を例にすることがあり、何らかのメディア論をもっていて、新しいメディアをデザインしているんだなと思わせられることがあった。そこらのITベンチャーの社長とJobsが違う点は、NewtonからiPhoneまでの15年間に青写真を積み重ねたことである。その厚みがWindowsCEとの差で、彼のメディア論の有効性を証明したのがiPhoneのブレイクであろう。しかしこんな人は他に見当たらないのである。10年後のメディアをめぐるライフスタイルを想像できて、それに向けて青写真を積み重ねていける人がいれば、iPhoneの次を世に出せるかもしれない。
関連情報 2012年7月25日(水) 『出版のマーケティングを見直す 復刊ドットコム』