投稿日: Aug 24, 2011 12:20:10 AM
データ処理のコラボレーションは難しいと思う方へ
日本的な商売では昔から長く取引してもらうとトータルでの利益が大きいという考え方があった。獲物を捕りつくしたら別の場所に移る狩猟的な商売とは異なる。顧客が長期に亘って購入し続ける商品やサービスのトータル価値を上げようとするLTV (ライフタイムバリュー Life Time Value)は日本には合っているものだと思う。昔の商店は顧客の顔と特性を覚えて商売していたのでLTVをデータとしては管理してこなかった。ところがスーパーマーケットとかチェーン店が発達すると、店の側は顧客の顔と特性は把握できなくなるので、いろいろなマーケティング調査に基づいて仮想の顧客を思い浮かべ、指標をたてて成果を想定する抽象化した管理手法として今日のLTVはあると思う。
BtoCの場合はこのような抽象的な把握をするとしても、BtoBなら昔の商店のように顧客の顔と特性を考えて個別対応するLTVが可能なはずだ。データ処理においては、コンピュータ設備が高額な時代にはデータ処理会社側が設備投資を先行して顧客囲いこみを目論んだものもLTVの変形といえる。しかし環境が変わってクラウド時代になり、設備の希少性がなくなるとデータを人質にするような囲い込みはデメリットの方が多くなる。コンテンツホルダである発注側は束縛を嫌い、またデータ処理側もソフトウェア面での先行投資はリスクになるために、囲い込みはお互いのリスクになって両者が向き合わなくなった状況が、記事『データ処理サービスの経済価値』で書いたような「その都度現金払い」の関係に現れている。
出版社であれ一般企業であれ、情報を扱うビジネスはそれぞれ固有のコンテンツを多く持って、それを循環・発展させるような経営をしている。新製品を出すときには多くの情報発信をし、製品の寿命が終わりに近づくとサポートくらいしか情報を扱わないが、次の類似の新製品を作るときには過去の情報は再び参照する。民間では目下の業務に必要な情報発信をしているだけになりがちで、これらから情報管理を独立して効率化することは難しいが、昔から文書管理とかCALSでは一貫したコンテンツ管理を指向していた。それらは大変のコストのかかるシステムであったが、ダウンサイジング・オープン化・マッシュアップ・クラウド化などの変化によって、もう一度見直して緩い関係の管理にする動きはある。こういった土台でLTVを再考する必要があるだろう。
それは、業務システムのカスタム化は、業務が変化する時代には行いにくく、むしろ新規追加もやりやすい柔軟性が求められているからである。XMLの時代には、できるところから始めるボトムアップでも、巨大なシステムにできることはWikipediaやYouTubeをみてもわかる。むしろこういったネットのサービスの巨大化に比べて、ビジネスの場の情報システムが随分とビハインドになってしまった。それは官庁のシステムに典型的なように、コンプライアンスなどが足を引っ張っていて、「ボトムアップ」を許さないという面もある。しかしコンテンツの活用という分野なら、現場主導で業務推進と同時に改善するようなボトムアップはやりやすい。ただし、コンテンツホルダと情報処理側の両方が、情報を循環させてビジネスを発展させるという点で合意をしていないと進まない。