投稿日: Jul 01, 2010 12:29:35 AM
電子書籍で出版ビジネスを救おうという方へ
6月25日(金)Kixプレセミナー2 「iPad、Kindle、EPUB…電子出版にまつわるフォーマット議論の先に何があるか」 #kix0625 登壇4番目の産総研社会知能技術研究ラボ主任研究員和泉憲明氏はサービス工学という視点でビジネスモデルを考えるベースの話をされた。従来の問題として技術で社会が変わらないことをJohnSeelyBrownは「ハンマーを持った人は、何でも釘に見える」と書籍「なぜITは社会を変えないのか」でたとえているという。ClaytonChristensenは書籍「イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」で重要顧客の声に耳を傾け、最も収益性の高い分野に投資すると経営がおかしくなるといった。こういった現代の課題は局所的な最適化だけをすすめた結果であり、社会全体からみた最適化につながるようにfeedback回路ができると持続的な成長になるはずというのがサービス工学の狙いのようだ。日本も自然発生的な企業の発展を経て成熟化段階にあり、従来の経営方法で閉塞感が強まっているので、持続的な成長のために考慮すべき点がある。
提供者と利用者のwin-win関係だけでは解決しない問題を、その外に効果を測定する観測者と、助言をする設計者を加えることで進化する循環を作り出そうというのがサービス工学のスキームである。医療機関が患者の関係だけを最適化すると医療対象でなくなった末期癌やその家族の問題が解決できないので、もっと大きな制度設計が必要になる、というようなことである。このためにまず全体像を考える。情報システムにはいろんな専門分野があるが全体感が乏しいのが弱点のようだ。
それは電子書籍にも通じるかもしれない。IT分野も利用者にソフトやハードを販売をしていたのが、Webサービス・クラウドの時代はソフトは提供側が持っていて、提供されるのはモノではなく機能になる。だから本当に必要な機能とは何かを見つけなければならない。それは今までモノに内包されていたもので顕在化していなかったかもしれない。過去のいろいろなイノベーションの例を見ても、技術があるから社会が変わったのではなく、社会的な文脈の中で技術が利用されるので、電子書籍でも出版物から今求められる機能を分離することが最初に必要である。その機能提供を実現するのに効率的な方法を考えていけば最小コストでサービスを実現できる。というのが電子書籍のサービス工学的なビジネスモデル作りであろう。
出版物は多様なのでどんな機能に着眼するかはさまざまであろう。HowToものは既にパソコンやWebでのサービス化がされているものも多く、それを参考に考えやすそうにも思える。しかしアスキーの遠藤氏が電子書籍の意識調査を発表していた際に、あまりポジティブな期待がなかったように、アイディアや技術先行で機能開発に陥ると失敗なのかもしれない。それよりも、出版界の閉塞状態を考えるに、サービス工学的視点の一番の課題は出版流通のように思える。つまり高い返本率でも経営が成り立つようにコストの安い本を多点数発行するという悪循環を抜け出すのに、よい本を見つけてもらって手に入れやすくする目的でサービス工学を考えてみるのはどうだろう。つまりダウンロードできる電子書籍を基点に、BookOnDemandの小部数印刷、古本などの2次流通などもうまく機能させて、全体としての効率とか活性化を目指すことも必要だ。