投稿日: Apr 24, 2014 4:21:47 AM
あまり語られることはないが…
AdobeのPhotoshopは画像レタッチソフトの標準のようになっているが、もともとはAdobeが開発したものではなく、安い卓上スキャナのオマケソフトのようなものであったのを、Adobeが買い取って強化したようなソフトだ。この安いスキャナというのは複合機のスキャン部分のようなもので、単体とかグラフィックス用には今ではほとんど見かけなくなったが、グラフィックス、とりわけ製版に革命をもたらしたものであったし、それを予見するかのようにPhotoshopに入れ込んでいったAdobeは世界中の製版分野を激変させた。
安いスキャナの登場以前は高額なドラム式スキャナの全盛期で、それを設備できる製版会社は限られていたために、カラー製版の仕事はそういった会社とか業界に集まってきた。1990年代に入ってDTPは写植版下の専門設備の代替にはなっても、カラー製版は無理だろうと思われていたのをひっくり返したのが安いスキャナとPhotoshop だった。Adobeという会社はベジェ曲線とかベクターグラフィックに強くても、色には強くはなかったのだが、技術の目の付け所がよかったのでPhotoshop(の前身)に白羽の矢をたてて、カラー製版を攻略しようとしたのだと思う。
それは製版スキャナはみんな伝統的なCMYとかRGBの3原色理論に基づいていたのに対して、当時の色に関するベンチャー企業はCIELuvなどの反対色理論(YBとGRで4原色といってもいいかもしれない)に基づいた色空間を操る傾向があって、そういったレタッチ&デザイン用ソフトなどが出始めていて、Photoshopも同様に作業中の内部のデータ形式は画像をCIELabで保持していたと思う。これによって比較的にデータ量がコンパクトにできるとか色空間の変換がやりやすいとか、そしてCIELabで色を扱えるという特徴がある。
他の反対色理論のレタッチ&デザインソフトはユーザインタフェースにも直接CIELuvやLabの空間内のシフトによって色を変える機能など斬新な操作性をつけていたが、Photoshop は伝統的なトーンカーブが使いやすいという保守的な操作性にとどめていた。そのために前者はプロの製版業界には入っていくことができなかったのに、Photoshop は入っていけたのだと思う。実際に印刷を想定してレタッチする場合は、伝統的なハイライト・ミドルトーン・シャドウの3点管理ができないと仕事にならないので、クリエイティブを狙った画像ソフトではプロの評価は受けられないものであった。その後Photohsopはクリエイティブな仕事をする機能をどんどん増やしていって、他の画像ソフトが追い付けないものとなった。
プラスチックや塗料など色のついた工業原料はCIELabでの色指定であるように、カラーマネジメントは反対色理論で発展していったことで、Photoshopは時代が下るほど有利になり、既存の製版システムは技術的には孤立していくことになった。おそらくAdobeのリーダーたちは3原色には発展性が無く、反対色が色のフロンティアになることを予感していたのだと思う。