投稿日: Oct 14, 2013 1:33:4 AM
微妙な感性が左右する
私は50年前から主として1960年代のアメリカ黒人音楽の45回転シングル盤を集めているので、それに見合ったオーディオ装置がを調達するのに苦労をしていた。1960年代後半からは時代はLPでステレオが標準になるので、オーディオ装置はハイファイ化し、オーケストラのレコードがコンサートホールのように聞こえることを標榜したアンプやスピーカーの開発が主流になった。しかしそれ以前のロックンロールとかR&Bの音楽はそのようなハイファイ装置で聴くことを前提には作られておらず、当時の日本では電蓄(電気蓄音機)とかAMラジオ、アメリカならジュークボックスで再現するとそれらしく聞こえるように作られていた。
結局当時のロック・R&Bの45回転盤はそれらの音楽のライブに近い再現をするように出来ていたと思う。なぜなら、クラブで実演が行われていない間にはジュークボックスが鳴っていたからである。要するにこれらの音楽の45回転盤はクラブ・tavernにおける音場が基準に作られていたと思う。古い目のジャズもそうだと思う。
ロックの世界もLPのHiFi時代になるとマルチトラック録音、ミキシング、マスタリングなどの技術が発達して、ライブとは異なる曲作りが行われるようになったり、逆にライブもイフェクターが発達してナマ楽器の音からは突き抜けた演奏がされるようになっていった。ハードロックからシンセまで、PAの発達と共に大人数で大音響を同時体験する世界というのが出来た。
CDの時代になってモノラル時代の古い録音テープもマスターからデジタル化して、録音当時の様子をHiFiで聴けるようになった。しかしこれらは音は澄んでいるが、ロック・R&Bの音楽としてみると何かが物足りないものになってしまった。シングル盤を電蓄で聞いていたときのような迫力が無い。次第にオールディーズのロックは一般受けしないものになっていく。
一方そういった音楽を再現する若い人はあらわれて、ヒューイルイス、ストレイキャッツ、スティーブレイボーンなどによるリメイクがヒットすることも起こった。彼らの録音はやはり現代のHiFiであって、今日の他の音楽と同水準なので、一般の人が聴いても違和感がなかったであろう。しかしそれらのオリジナル曲は1960年前後につくられていて、それをCD化してもあまり一般受けしない。それはHiFiでないオールディーズに違和感があるとウチの嫁は言っていた。
初期のCDによる45回転盤音楽の復元が物足りなかったのは、オーディオの再現装置がHiFiであっても、あたかもジュークボックスや電蓄がなっているような雰囲気に音の特性を変換しなかったからである。当時の装置では、おそらく録音時点で音が痩せてしまって、それをレコード盤カッティングする装置で何らか補正が働き、モノラルレコードのピックアップからアンプ・スピーカーもコンプレスが聞いて音圧が盛り上がるような特性があったはずである。そのようなモノラル再生系の特性をシミュレートしてCDを作ると迫力が出る。
これはビデオテープの完パケマスターをデジタルでキャプチャーすると低コントラストの眠い映像になるのは、ビデオのマスターがダビングを経ることでコントラストがきつくなってしまうことを事前に補正していたからというのと同じ現象だ。
アナログ情報がそのまま復元されても、元と同じ価値を持つとは限らない。そこに当時の印象をシミュレートしてデータ加工するというプロセスが必要になる。それができないならば、アーチストが再演するというリメイクの方が、人の心の琴線に響くものになるということだろう。
音楽関係の記事