投稿日: Jun 28, 2012 12:38:20 AM
日本では後手にまわりがちだと思う方へ
ビデオカセットの初期にソニーのβビデオはポケットサイズにこだわり、VHSは映画2時間丸ごと録画にこだわったために、標準規格ができなかったことに、記事『オープンなパブリッシングに向けて』で触れた。磁気テープにTV走査線の情報を記録再生する原理は同じでも、テープの大きさをどうするのかという点で合意できないでβvsVHS戦争があった。しかしその後ビデオテープが改善されるとポケットサイズで2時間録画容易になり、結局DVになると音楽カセットよりも小さくなってしまった。ということは当初に磁気テープの進歩を予測すると、現状の出発点では不十分でも両社のコンセプトがそのうちに叶えられる共通規格を考えられたはずだが、両社ともに立ち上げ時の販売競争でどこをアピールポイントにするかを優先したのである。
今はそれも無くなり家庭用ビデオテープの歴史は30年ほどだった。それと似たことが1950年頃から1980年代までの音楽レコードでもあった。若い人はレコードの種類を知らないだろうが、ヒット曲などが45回転のシングル盤で、アルバムと称する33回転のLP盤が戦後に発展していった。その前の時代はSP盤と呼ばれる78回転盤が使われていた。SPは割れやすく、大きく、しかも音質がよくなかったので、次期レコードの開発競争がされ、ビニルに細い溝を刻むと安くて音質のよいレコードができることがわかった。コロンビアは1948年にSP盤の大きさで10-12曲が入る33回転を提案し、RCAビクターは1949年に小さなレコードにして取り扱いが簡単で装置も安価な45回転を提案し、両社が技術ライセンシングを巡ってぶつかりあった。
しかし1951年には両社とも両方の方式を生産することに合意し、また他のレコード会社やプレーヤを作るところもみんな繁栄した。βvsVHS戦争にあてはめると、小さいカセットと長時間録画カセットに分けて両者が並存するような合意ができたならば、無駄な競争はしなくて済んだはずである。その後CDやDVDの時代には次第に無駄な戦争はしない方向になってきたが、似ているが独自の規格で張り合うことはいつでも起こっている。これには仕方ない面もあるが、関連した仕事をしているステークホルダーには迷惑な話なので、その対策を考えておくことが重要である。それが情報の標準としての規格である。
eBookではKindleとKOBOの端末の規格が異なっていても構わないが、コンテンツを提供する側が対応できないと困るので、両者ともEPUBで原稿を持ち込めばよくなっている。つまり電子出版もやっと他の電子メディアと同じような水準の環境ができつつある。今ちょうど出版デジタル機構で電子書籍の制作作業が始まろうとしているが、そのうちでEPUBの比重はどれくらいあるのだろうか? もし他のフォーマットで作っていると、やはり早晩にEPUB変換をせざるを得なくなるだろう。それにしてもXMDFとドットブックを下敷きにした中間フォーマットはどこへ行ってしまったのだろう。それに投じた税金はどうなった?
関連情報
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