投稿日: Dec 18, 2012 2:46:1 AM
需要は作り出すものだと思う方へ
出版ビジネスは長い本の歴史の結果として敷かれたレールの上を走るような運営をしているので、記事『本のアーキテクチャ』で書いたように、デジタルで紙の上の編集・制作よりも自由になっても、紙の本から離れたものを考えることは大変難しい。つまり何の制約も無くなった電子出版というのは、従来の出版ビジネスからすると必要の無いものであるともいえる。IT屋さんは出版コンテンツを使った電子書籍という分野を作りたがっているのだが、デジタルコンテンツは特定のデバイスに縛られること無く変化し続け、クリエーターと人々の隔たりを縮めていくことを記事『電子書籍の話はタブレット議論にすり替わる』で書いた。
おそらく電子出版は、編集とITと制作の3分野が一体となって企画しないと革新的なものにはならないだろう。あまり現状とかけ離れたものを考えるのでなければ、記事『電子出版に展望が持てるか?』に書いた長谷川氏の意見のように、出版サイドでITと制作のスキルをもつことが最も効率がよいし、良いものが生まれるだろう。
しかし誰もやったことの無いようなことをしようと思うと、編集とITと制作のシナジーをどう作り出すのかが大きな課題になるだろう。かつての日本で企業に余力があった時にはジョイントベンチャーというのも沢山作られたのだが、今のご時勢では自分の会社の直接的な売り上げに貢献しないことに金を出し合うことは行い難い。
ところが紙の出版を超えるような市場を狙うのなら、それは避けて通れない道である。これは電子出版に限らずいわゆるスマートTVも同じような状況で、既存のTVチャンネルやレンタルビデオの置き換えだけに取り組んでいたのでは、早晩にスマートTVという名は廃れるであろう。どちらもギョーカイ内の発想では電子化が市場に受け入れられたところで売り上げのプラスマイナスはきっと若干マイナスになる程度で、決して将来を拓くものとはならない。
やはりまず明確な出版ターゲットを定めて、自分の殻から飛び出していろいろな立場の方との共同戦線を張って、従来のメディア以上に、クリエーターと人々のつながりを強くする工夫をすることが、新しいデジタルのコンテンツサービスを作り出すことになるのだろう。過去の電波媒体でも通信利用でも最初から人々の期待があったわけではなく、新しいカタチを示して初めて人々に意識されるようになるのである。だから、誰も電子出版を必要としていないのも当然で、最初から大掛かりなビジネスはリスクが大きく、特定ターゲットの人々には必須のものを思われるような事例を増やしていかなければならない。レシピのように。