投稿日: Sep 17, 2012 1:50:56 AM
まだ紙媒体に有利なところはあると思う方へ
うちの奥さんは読書が好きで、特にドストエフスキーのような長編小説も平気で読むが、電子書籍には関心がない。今はうちの家族は本を図書館で借りるのがフツーになっているので、本棚が足りないという住宅事情は関係ない。本を置くところがないから自炊とか電子書籍という話もあったが、一般人はそもそも家に本を置かなくなっている。だから電子書籍のかさばらない特徴というのはもはやメリットでもない。ケータイの書籍は短編であったし、今のeBookでも一気に読みきりのようなものがベストセラーに多いと思う。今後ハリーポッターのようなものがデジタルで登場してヒットするかどうか、今は疑問に思う。それはネットでの情報受容というのがどんどんフラグメント化しているように思えるからである。
昔は長電話という習慣があったが、パソコンのチャットのように思いついたことだけ伝えるとか、ケータイの時代のメールのやりとりのようにレスポンスの良さをコミュニケーション上重視するように、コミュニケーションのモードがデジタル通信で変わった。つまり情報の単位が小さくなり、オンデマンドになっていったのである。これはメディアにもあてはまって、紙のぶ厚い情報誌やカタログは身の回りから激減し、ネットではナビゲーションと検索になっている。記事『SmartTVの底にあるもの』では新聞を読む習慣をとりあげたが、これをネットでニュースを読む時間と比べると、新聞の方はまとまった時間を使っていて、しかし1日あたりの見る頻度で言えばネットの方が多いという構図になるだろう。画面で情報を見るのは業務でなければ、必要な時だけ見に行ってすぐに戻るということになる。
つまり人々のメディア接触のモードもフラグメント化しているし、刹那的になっている。それは太古のオーラルトラディションによるコミュニケーションに近いづいていくもので自然なのかもしれない。一方で文明化というのは知識の構築の歴史であり、文明化を進める知恵というのも人はもってきたので、これから人類が情報のフラグメント化で思考が発散してオワリということもないだろう。ではどこにどんな知恵が必要なのだろうか?
図の赤線がオンラインの検索対象の頻度分布で、右に行くほど利用頻度の少ない情報が長く続くロングテールになる。通常検索して知り得るのは左の「検索上位」にあるごく僅かな情報だけである。その右はサイトのアフィリエイトとかメルマガとか何らかプロモーションによって知り得る情報である。ネットならではロングテールというのはクリエータが自分のサイトに露出しているようなものである。
図の青線は紙媒体の場合で、やはり利用頻度の多いのはリアルワールドや一部のマスメディアで知りえる情報だけであるが、それは検索上位よりも多くの情報を知り得るのが現状だ。例えば書店に行って本を発見する方が、ネットで本を見つけるよりも多いだろう。
さらに雑誌はいろんな専門分野もあって、ニッチな情報を総合的に知るすべはいろいろある。その雑誌は発行にコストがかかるので維持できる最低部数という閾値があって、雑誌の右端のようにどこかでストンと落ちて、それ以下の利用頻度の情報は載らない。商業印刷は無料であり、もっと細かい単位の情報を扱うが、やはりあまり利用頻度のない情報は印刷物にもできず、コピーとかデジタルになる。
つまり現状では紙媒体の方が「紹介・お勧め」の守備範囲が広く、逆にネットはそこを攻め切れていないといえる。右端の超ロングテールはネットでしかないものではあるが、ビジネス化は難しい。ビッグデータの処理でネット上での「紹介・お勧め」が発展するはずだが、そのコストはどこから出てくるのだろうか? 紙媒体の「紹介・お勧め」に依存している限りは、それを減らしてビッグデータ解析にまわすわけにもいかないだろう。ビジネスに役立つビッグデータ処理というのが印刷を滅ぼすかもしれないのである。