投稿日: May 08, 2014 12:58:24 AM
アメリカの新聞、万事休す
アメリカ新聞業界の広告売上が「1950年以下」に落ち込むという記事が、「メディアの輪郭」 http://media-outlines.hateblo.jp/entry/2014/04/30/204734」→「http://www.huffingtonpost.jp/」と転載されていて、2000年の658億ドル(約6.5兆円)をピークに、2013年では4分の1に落ち込み、これは1950年のレベルであることを、図 で示している。
おそらく書かれた方はアメリカの新聞広告の中身をよくご存じではないだろう。私は1980年ごろから今世紀初めまでお付き合いさせていただいた世界なので、いろいろ思い出すこともあり感無量の気がする。このような日がくるのではないかという議論が真剣にされたのは1990年代の後半だったと思う。それはYahooなどポータルサイトがニュース配信をするようになった頃で、それが将来何をもたらすのかというセッションであった。
その後は実はアメリカの新聞業界は率先して自前のWebにも力を入れ、また新聞広告をWebにも出すように営業活動を広げていって、ある時期までは紙の売り上げの落ち込みをなんとかネットで食い止めようとする努力が続けられていたし、一定の成果はあったように思う。何よりもネットという土俵で戦おうとしていたことは大いに評価すべきものがある。
それにも拘わらずネットでは負けて広告を奪われていくのだが、では何に奪われたのかというのが大抵の場合には語られていない。新聞広告は大まかに言って3つの広告があり、一番わかりやすいのは日本と同じナショナル広告であって、全国的にマーケティングしている大メーカーの広告である。その次が日本ではチラシになっているような、ローカルアドであり、アメリカにもチラシはあるものの地域の新聞社自身が紙面内に小売広告をとって載せている。それから日本でも昔は多かった案内広告・3行広告の類があり、多い時には何十ページも日曜版に載っていることがあった。これは日本では情報誌として発達した部分であるが、アメリカの地域の新聞は自分たちで営業もシステムもやっていたのである。
ところがチラシに相当するものはネット通販の拡大による小売業の不振の影響を受け、また顧客と密接な関係が築けるモバイルマーケティングにシフトしつつある。日本の新聞広告ではクーポン割引はあまりないのだろうが、アメリカの場合はテレビ広告に比べて新聞広告にはクーポンが付けられることが強みであったし、事実主婦の利用率は高かった。これがモバイルにもっていかれるのである。
膨大な案内広告というのは、eBayやCraigslistにやられてしまった。eBayはオークションサイトで自前の大きなデータセンタをもちシステム開発に巨額の投資をしているので新聞社が束になっても敵わないものとなってしまった。一方Craigslistはハイテクは何もないような簡素なWebの案内広告であるが、世界600都市ぐらいに展開していて(当然東京の情報もある)1億件ほどを扱い、しかもその運営は30人ほどでやっているというもので、この規模には地域の新聞社は太刀打ちできない。例えば来月にロサンゼルスに行く人が事前に地元のイベントを調べるというようなことに使え、野球の大リーグの試合のチケットも入手できる。
ここ数年のアメリカの新聞広告の落ち込みは、もうお手上げ状態だと思う。つまり広告モデルの地域新聞は今までのようにはやっていけないので、おそらく地域新聞の定義を広告依存ではなく、しかも単なる地域密着でもない、別の価値ある何かとして考え直さなければ将来はないのだろう。