投稿日: Dec 28, 2013 2:37:15 AM
スポイルされた音楽
生涯で1曲だけレコードを録音したという人は結構いる。私は戦後から1960年代までのアメリカ黒人大衆音楽を集めているが、その主体は数枚しかシングルを出していなくてLPにはなり難い人である。当然CDを出すには全然足りないので、ここ20年くらいはスポイルされてきたわけだし、ネットの時代になっても録音数の少ない人は一目につく機会が少ないのは同様のようである。
LPの頃からコンピレーションはいくらかあって、それらで録音数の少ない人の歌も紹介されている場合がある。しかしそもそもヒットせず売れなかった曲はなかなか再録されない。だから一部マニアが元のレコードを買い集めるという世界があって、それらの音源をもとにDJが活躍するという面がヨーロッパなどにはある。
こういった1枚~数枚しか発売していないアーチストはヒット曲はないのだが、だから音楽的に2流であるかというとそうでもない。当然ガレージと呼ばれるアマチュアの自主制作のようなものも昔から存在はするが、それらとは別に一流のバンドのメンバーとかコーラグループで活躍している人が、何かの弾みでソロで歌わせてもらっている場合は、音楽的にはレベルが高い。
実際はステージやライブの折にはちょっとは歌っているかもしれないが、録音の機会がなかったという人が多いと思われる。アメリカのJukeJointなどのライブでは、バンドのメンバーが一斉に揃ってライブが始まるのではなく、三々五々集まりながら次第に編成が増えていくようなことがあった。つまり本格的に始まる前や途中休憩や終わった後にも誰かが何かをやっているという状態である。JimiHendrixがニューヨークに来たときには大先輩であるジミー・スプルイルが不在の時に代役を務めたが、その意味では誰でも人前でやってみせることができる緩いライブである。
しかしこういう自然発生的な音楽よりは、A&Rマンがウケを狙ってプロデュースするあざとい音楽の方がヒットしやすい。でも自然な味を求めると逆にA&Rマン不在で偶発的に録音されたものが聞きたくなる。それがマニア向けのレコードであるともいえる。
つまりスタジオでレコード録音の際に時間が余ってしまったら、無名の人にも録音のお鉢が回ってきたと考えられ、それらの中で「ひょっとしたらイケルんじゃない?」みたいな曲がレコード発売になることがあったのだろう。1960年代はまだ人種隔離があったので、黒人のライブに白人は入って行けず、記録はほとんどない。そのライブを想像する唯一の手がかりが1枚~数枚しか出していない楽曲にある場合があるから、一部の人はそれらを探し回るのである。
ライブの際、録音の際、といった時にいろんな人が参画できるようにすることに意味があるということだろう。
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