投稿日: Apr 27, 2010 6:26:39 AM
Amazonが日本の電子書籍を扱うのに何の問題があるのかと思う方へ
日本の出版流通の仕組みはかつてはうまく機能したものであったことを「出版は、やはり三位一体で伸びるが…」で書いた。出版社にとって印刷所の仕入れのバランスを取るために全集物などのシリーズでは巻によって大手印刷会社に分散して発注するようなことも行なわれていた。また印刷会社の方でも自社のキャパシティを超えるような仕事は競合社に分けてやってもらうこともあった。ライバルであっても仕事の融通ができるのは印刷という仕事が標準化されているからで、その前提として出版業界と印刷業界の切り分けも、個々の受発注のレベルではなく、業界としての標準化として機能していた。これは書籍流通にも書店にも当てはまることであった。つまり水平分業が完成していたのである。
だからこの期に及んで各水平のレイヤーの会社は、この構造を壊すことができないのである。抜け駆けについても同じようにいえる。全国的なこの構造を相手にして、垂直統合で戦いを挑むのは大変である。かつてフロッピー・CD-ROMの出版とか電子辞書で家電店ルートの開拓を試みた電気業界もなしえなかったものである。このように護送船団化した水平分業は国内では無敵に近いものなのだが、「黒船」には神経を尖らすようになった。
こう書いてくると「黒船」はIT・ネットの上に出来上がりつつある、コンテンツ・プラットフォーム・セールスという水平分業であることがわかると思う。この新しい構造は、日本の出版界とほぼ似たような構造になっているので、そちらにシフトすることも容易だろうという懸念があるはずだ。Amazonで紙の本を売ってもらうように、Amazonにコンテンツを出せば、KindleでもiPadでも販売してもらえるし、コンテンツホルダーはiBookStoreでもB&Nでもどこでも出すことが容易なのである。
だから本来なら出版社にとってはリスクの低い楽チンなビジネス環境が登場したと喜ばなければならないはずであるが、度がすぎてしまうと黒船ばかりが栄えて、日本の流通が沈む船になるという危惧があるのだろう。でもそれはコンテンツホルダが口をだすことではなく、読者が決めることではないのか。つまり、トータルにみてどちらのサービスが優れているのかの競争をしなければならない時が来た。ファウルボールで粘るにも限度があるだろう。
2010年5月21日(金) kixプレセミナー黒船「電子 書籍ビジネス」に対するメディア再構築を考察する