投稿日: Jul 24, 2011 11:55:9 PM
TVこそガラパゴスと思う方へ
地デジカが脅かし続けてきたことがついに現実となり、TVのアナログ放送の停波になった。放送事業者は大変うまくデジタルへの移行ができたと発表した。この機にNHKの受信料を払わない云々という議論もあったが「断TV」という日本国民はほとんど居ないらしく、みんな素直に新しいTVに買い替えたと思われる。国によっては地デジ放送をアナログTVで見るためのコンバータを安く売るとか配って、割と短期にデジタル放送に切り替えたところもあったが、日本はTV受信機の生産国でもあるので、産業政策上は買い替えに比重があった。日本でも何千円かのコンバータは売ってはいたが話題にはならなかった。
地デジ移行にかかった広報費などを考えると原価2000円くらいのコンバータを配るとか安くリースする方が移行は手っ取り早かったはずだが、実は放送をデジタルにすることよりもTVの買い替えを如何に促進するかが移行キャンペーンの中心であったことは、エコポイント云々で一生懸命家電業界を支えていたことからもわかる。世界的にはサムスンなど安くて高品質でTV受信機の中心となってはいるが、日本市場には入ってきていない。これはB-CASの認証から量販店での販売支援まで、いろいろな参入障壁があったからだろう。やはり国内の生産者を守る鉄壁の商習慣ができているといえる。
TVがデジタルになるなら、インターネットとの接点が多くなる。しかし「まねきTV」が著作権侵害になったり、損をしている人は誰もいないとしても、ネットによる視聴が日本の放送関係者が決めたスタイルをはみ出すものは許さない、という姿勢があることを、記事『シナジーも束縛になると弊害』で書いた。これは特に業績が下り坂の今日では、TVをめぐるステークホルダがみんな守りの姿勢になっていて、抜け駆けの新しいビジネスモデルをさせないように働くからだと思う。
アナログTVが見られなくなることを機会に、今日的にTVがどういう役割を果たしているか、どうあるべきか、などの議論が起こるのかとも思われたが、どうもTVというのはシリアスに議論をする対象ではなくなっているようだ。地デジ移行の際の選択肢としてスマートTVなどが参入のチャンスにすることもできなかった。これはスマートTV側が既存の放送事業者と十分なネゴシエーションができなかったからであろうが、一般視聴者にとってもスマートTVよりも単なる地デジ移行の方を優先に考えたはずだ。インターネットでTVを見るフレッツテレビの販促も本気であったとは思えない。ネットでTVが叩かれるのとは逆で、ビジネスとしては攻めにくい相手であった。
インターネットがTVを変えるというのは、昨年騒がれたほど身近なテーマではないようだ。まるで空気のような存在になったTV放送は、慣性モーメントが非常に大きく、変革が困難なことと、それぞれの国の制度や国民性が絡んで、いずれも究極のガラパゴス・デバイス化していくように思える。