投稿日: Aug 10, 2010 11:42:56 PM
経営として電子書籍を考える難しさを思う方へ
電子書籍という言い方は、どうしても紙の本から渋々デジタル化に取り組まなければならないというニュアンスが感じられる、というかそのような人々がよく使う言葉で、欧米で使われるeBookの方が過去にとらわれないすっきりした言い方に思える。その反面eBookは出版文化を軽く見すぎているのではないかと思うようなものもあったりする。いずれにせよこれらの言葉が広まるにつれて、「49800円であなたの著述を電子書籍で」というようなサービスのビジネスも出てきて、はっきりした定義はできにくくなっている。
ここでは従来出版に関して何らかのビジネスをしている方が、eBookも含めて今後の事業計画を作るために考慮すべきことをまとめてみた。順序としては、まず第1に5年くらい先のeBookがどうなっているかを想像することである。そのためにeBookを構成している要素をざくっとおさえておかねばならない。第2には、紙の書籍とeBookの関係をどうしたいか、どのようにうまく関連付けられるかをそれぞれの携わる分野で作戦をたてることだろう。第3は、読者が今後どのようになっていくかであって、世代差とかだけではなく、特に読書機会の拡大に着目する必要がある。第4は、現実問題として業界地図がどのように変化していくか、自分はどこら辺に位置するであろうかを見て、第2-第3の点をもっと明瞭に書き込んでいけば事業の筋道ができるのではないか。
第1 - 究極のeBookとは
現在は記事「カオスから次の進化へ」に書いたように、無秩序な中で失望している人もいるが、技術革新というのはロジカルなもので、技術に限ればある程度の予測はできる。だから投資もされるのである。それくらいのざっくり感でeBookを構成している要素を見てみると、今いろいろ言われるformatも、オープン化と標準化が進む中で予測する必要があるし、そこに競争分野・非競争分野の区別ができるようにならなければならない。そのデータ構造から、データ管理 システムによるサービス ユーザ管理 クラウド利用など、バックヤードの対応を想定する。ここからガラパゴス的特異なことをしようとすると破綻することが見えていくるはずだ。デバイスについても5年くらいならディスプレイ、操作性、価格、通信能力はだいたい見えているので、それがわかれば過剰な期待はなくなるだろう。このようにして、これからどう収斂するのかの予測をたて、自社ビジネスの仮説を作る。
第2 - eBookと書籍の綱引き
紙の本とeBookには市場での重なり分野はあるが、それはカンニバリズムとか価格崩壊、中抜き、低価格化というマイナス面だけを強調するのではなく、期待される相乗効果をもっと考えないと将来像にはつながらない。つまりeBookを先に見て本にたどり着くとか、図書館などで紙の本を先にみてeBookを購入するパターンはいろいろあり得る。おそらく読書とは紙とeBookのハイブリッドになるだろう。では紙とeBookのすみわけはどうなるのか、eBookで新規にできる電子教科書プロジェクト分野や、eBook化しないものもありえる。これらを総合して過去の書籍販売推移のグラフの上にeBookをあてはめて考えてみる。
第3 - eBookがもたらす新ライフスタイル
ケータイ小説、ケータイコミックが示したのはユビキタス読書であり、これは今まで本屋に限られていた立ち読みが、時間つぶしとしていつでもどこでもできるようになることである。つまりWebやケータイでeBookは販促できるし、コストが低いのでフリーミアムにもなる。こういう販促の広がりの上に自社のビジネスを伸ばすことを考えるのがよい。つまり人々がネット上の情報に接することが増えれば増えるほど、アフィリエイト販売としてニュース連動やAdWords、AdSenseまたは、eBook自身の参考文献などをきっかけとした販売は広がるだろうし、読者もそのように本に出会うスタイルを身につけるであろう。読書機会の拡大としては、ノマド的に本を持たない読書家の登場、障害者高齢者の読書増も期待される。またこれらの先に読書と関連して自分のノートへのクリッピングや引用の利用による情報共有など、本を契機としたソーシャルな利用が考えられる。
第4 - eBookビジネスの勢力図
過去にも出版の周囲にはいろいろな業種があって、それはデジタル化によって大きく組みかえられようとしていて、それが一見カオス状態になっている理由だが、今の出版社や関連業者の果たしている役割を棚卸・分解して、どのような役割があるか、そこでのポテンシャル、これからその分野に作用する外部条件(海外アウトソーシング、黒船、言語関連技術……)を検討する。それらの優位を整理すると次世代のビジネスモデルが考えられるだろう。基本はこれからeBookは通販として考えるべきことだろう。通販の効率に寄与しないところは今以上のビジネスにはならないかもしれない。予想される主要プレーヤーと、利益の配分が情報加工業者・流通業者を含めてどうなるかである。
ビジネスモデルは大手出版社がやっているベストセラー分野では、フリーミアムやテストマーケティングにeBookはあてはまる。中小出版で専門書を出している場合は、ロングテールで利益を出すような転換の機会であり、出版再生への残された重要な道がeBookであろう。このほか今までの出版には取り込まれていなかった著者や新人の登竜門としていくつかのビジネスモデルがでてくるであろうが、そこへの新規参入は出版に活気をもたらす点で歓迎すべきだ。