投稿日: May 12, 2015 1:16:30 AM
日本の出版界の行ってきたことは、むやみに出版点数を増やしても良いビジネスにはならないことを証明してきたのではないかと思うことがある。出版社は発行点数を達成するのが命題で、それによって販売部数を確保するしかビジネスとして生き残る道がないかのように思っているのだろうか?本来は限りなく多様な出版形態があり得るのにも関らず、統一的なビジネススキームにみんなが寄り集まっているように見える。こういうスキームに巻き込まれて本を作るのは辛い。
どんなクリエイティブでも許された予算や制作期間との戦いになるものではあるが、禍根を残すような仕事はしたくない。出版した後に悪い反応とかクレームが無いように配慮して編集しているはずであるが、思わぬところで配慮の足りない点が呈露する場合もある。それで正誤表を作ったり、重版の際に改版にするとかになるわけだが、できれば出版前にそれなりのレビューは受けておきたい。現状では事前レビュー不足が質の問題を産む場合がある。
書籍によっては出版前に白表紙の本を何百冊か印刷して関係各所に配って読んでもらうことがある。しかし書籍の印刷数がどんどん減ってきた中においてはそういう方法はとり難い。でもオンデマンド本ならそれも可能で、レビューに必要な数だけ白表紙を作ることができる。だから一つは事前にレビューを受けて質を高めることは取り組めると思う。
それとは別に、原稿の質という点では、書籍の体裁にするために「束を出す」必要性から、一定のページ数になるようにいろいろな原稿を寄せ集めることが質を低下させる。要するに原稿の嵩上げである。これも今はネットで一般的な文献は簡単に参照できるようになったので、短時間に沢山の原稿が書けることが災いしているかもしれない。
某方の博士論文でWebからのコピペが発覚したことがあったが、コピペ部分は概要のようで、例えば用語の定義とか今日に至る経緯のような、誰が書いても同じようになるところは、ちゃんと外部のものを参照させてもらえるようにすれば、コピペ云々という議論はなくなるし、著者は自分の研究にフォーカスして書くことができる。
これは紙では引用許諾をとるとか、別文書を合わせ読むように明記する(JISなどの規格書では別規格書を買わせることで解決しているのだが…)ことはできるが、利便性からするとネット上のリンクの方がスマートであり、ネットでもこの問題を一度正面から議論すべきだろうと思う。(例えばドキュメントの一部分「ここからここまで」をCCにするような扱いとか、メタデータとして機械処理可能なCCなど。)
ページ数の嵩上げをしない出版は紙ではやりにくくても、すでに電子書籍では可能になっているが、関連した小さい電子出版物の相互参照も仕組みとして取り組まないと嵩上げ書籍よりも利便性が劣ってしまうようにも思える。書籍の質を向上させたところで売り上げが伸びるとは限らないが、よい著者はなるべく質の担保されるところで本を出したいと思うだろう。いずれにしても出版元が質を向上させることが今のビジネススキームを守るよりも重要だと思わなければ行動には移らないのだが…。
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