投稿日: Mar 30, 2012 6:31:31 AM
定価主義は経営のふがいなさだと思う方へ
Amazonの実態に迫る「出版を最先端ビジネスにしたAmazon 」セミナーを3月28日(水)にEBook2.0 Forum主宰/EBook2.0 Magazine編集長の鎌田博樹氏と行なって、日本の電子書籍で一番大変なのは価格の考え方だなあという気がした。セミナーの内容は、だいたい『本から始まって本に戻るAmazon』及び「Amazonと付き合うための5ヵ条 - 基本と応用」にあり、そこで使われたプレゼン資料も「出版を最先端ビジネスにしたAmazon 」にupされている。価格問題は改めてテーマとして取り組むべきであるが、ざっと話の中から関係したところを拾ってみよう。
鎌田氏はAmazonが$9.99一律という値段を始めたのは、紙の書籍の実勢価格だからという。アメリカでは最初にハードカバーで出たときは$23であっても店頭段階では次第に下がっていく。これは映画の封切ロードショウから、次第に下がっていくとか、DVD、レンタルなどでは異なる値段設定がされているように、あるいは音楽でもそうだが、アメリカは市場価格を原理としているのに対して、日本は定価主義で再販価格維持なので、状況によって売価が変動することには慣れておらず、電子書籍でもサービスに応じた価格設定という考えが行ないにくいと思われる。
紙の書籍に対して電子書籍には権威、存在感、所有感がない話もあった。こういう資産性ゼロにもかかわらず$9.99というのは決して安いものではないといえる。Amazonはサービスインに際してサービスのイメージを描きやすいように値段設定をしただけで、実際には電子書籍でも価格は変わっていく。私はアフィリエイトの話をしたが、販売管理費と売値、およびペイバックというのも連動してくると思う。実際には紙も本でも教科書などで著者が買い上げる場合のレートは別途設定される場合があり、どのくらい捌くかで価格設定が異なるとか、ゼミで使うとか組織内でまとまって使う、あるいは一定期間だけ読書できるようにするなど、使われ方で価格は変わるほうが自然である。こういった販売政策や価格政策がないからこそ、定価主義に固執するというのも日本の現状かとも思う。
鎌田氏は電子書籍のプロモーション方法として、日替わりの安値サービスがされている話をしたが、これは本日のお得書籍は何か、みたいなクーポンやスーパーのチラシ的な方法で注目を引き、毎日の動きに敏感になってもらうのが目的であるという。また映画の原作を売るような昔から角川がやっているクロスなプロモーションも電子書籍はやりやすくなる。要するに紙の本の威厳とは相容れないかもしれないミーハーな売り方が電子書籍で広がっていることが、電子書籍がアメリカでクリティカル・マスを越えた背景にあるようだ。
これは日本なら由々しきことと思う人がいるかもしれないが、紙の本と異なるのは、ネットで販売する以上、いつでもやめられることで、思いつくだけのあらん限りの販売の試みをして、良いものだけ残していくというコントロールが可能になったことでもある。現に書籍以外のECは以前からそのように推移している。昨年話題のクーポンもそうであるが、それが役立つのかビジネスの崩壊になるのかの違いは、売る側の主体性にある。つまり定価主義に守られなければ経営ができないのか、さまざまな販売方法をコントロールする部署が出版社の中にあるのかどうか、という問題につながっていると思う。