投稿日: Dec 08, 2010 11:26:16 PM
電子書籍元年がピンと来なかった方へ
Webで縦書きを実現するためのCSS3の会議も結構時間がかかっているようだが、Webのことしか考えない人を相手にするのは大変なんだな、という気がする。つまり人が触れる情報はさまざまあるわけで、いずれであってもそこには文字も表示されなければならない。アナログのTV放送なら言語の違いごとに編集を必要としたが、DVDでは音声や字幕の切り替えで対応できる。デジタル放送やネットでの配信においてもこのような技術は必要となり、そういったものをどうやってオーサリングしたり管理するのがよいのか、という課題がでてくる。つまりマルチメディア・クロスメディアという状況の中で、Webなど個々の応用分野がある。だから従来のような使い方のブラウザ仕様だけ考えてWebの規格を決める時代ではなくなって、HTML5にいろいろな機能を持ち込もうとしているのだと思う。
Webブラウザで見られる電子雑誌をHTML5で作った例もあり、iPadで見ればWebとHTML5ですべてOKのようにも思えるが、Flashなら既に用意されている機能を使えば済むところを自分で作らなければならないなどの環境の不足があるようで、まだすぐにはRichメディアは一般化はしないだろう。Webに関連したCSS3も次第に荷が重くなるだろうから、ブラウザおよび同じデータがどこでどのように使われるかを含めて、汎用性の高い規格を考える必要が出てくるだろう。
電子書籍もHTML、XHTMLの派生なので、同様に汎用性とか次なる応用展開を考えて仕様や規格を考えるべきところにくるだろう。2010年の電子書籍元年では、残念ながらケータイ小説を超えるような話題は出なかったので、書き手であっても、流通であっても、読書スタイルであっても、電子書籍で何が変わった、といえるほどのことはなかった。Webの縦書きを検討していた時に俳句の世界がケータイSNS化していたので、縦書きで一句読めたら喜ばれるのでは、と思ったことがある。縦書きとは別にディスカッションもテンプレートを用意しておいて最初から電子書籍形式というのもあるかと思った。電子書籍の可能性(のうち優先順位は高くないが)として、書き手と読み手を同一平面にするものがあるだろう。
2010年の傾向としては、記事『作品-出版-読者』で触れたように、著者の自主出版と、読者の自炊という、既存の出版社を外した動向が着目された。これがそのままどんどん広がるとは思えないが、その動機は根深いものがあり、新しい電子書籍が今後解決すべきことであると同時にビジネスのヒントの宝庫のようなものである。たいへんグレーなビジネスであるブックスキャンは安いこともあってバックオーダーを大変多く抱えている。その客の中にはダンボール箱単位で電子化を依頼する人が結構いて、いくつも本棚がある人が家の整理をしていると、整理のカテゴリに「BookOff逝き」「電子書籍逝き」などの仕分けがされていく様子が目に浮かぶ。
BookOff問題もそうであったが、これらは出版側がマーケティング面で立ち遅れていたことの結果である。つまり新刊の販促キャンペーンはしていても、マーケットである読者の家庭内までは調べていなかった。買った客がその後どのように振舞っていたかというマーケティングが不在で、一方的に新刊を書店に押し込むことをしていた。学校が国語の教材に小説を使おうとしたら絶版になっていたということもよくあるようだ。そういったことも電子教科書なら対応できるはずだ。出版社は書店への押し込みと同様に電子書籍を考えることをそろそろやめなければならない。