投稿日: Jan 26, 2016 1:41:51 AM
学生の頃は電子機器の組み立てアルバイトをしていて、人工衛星の地上局の通信施設とか新幹線の制御卓など一品生産のハーネスなどをかなり長くやった。その理由は高級なパーツの残り物がもらえるとかの役得が多かったからである。当時最先端のICであっても部品としてはそう高いものではなく、電子機器が高くなるのは組立であった。金メッキのコネクタが1個何百円もしたし、線材も直流電源でもツイストペアのシールドが使われていて、その末端処理にも時間がかかった。つまりプリント基板以外のところに金がかかったのである。
パソコンも最初は何十万円もしたのだが、NEC9801では通信機器に使うのと同じようなコネクタが使われていた。インテルのCPU486が登場した段階で、それを使ったNEC9801のフルセットは100万円もした。しかしアメリカのPC互換機パッカードベルなら30万円で486機が買えることがわかった。
それでPC互換機を1台輸入してバラし、パーツを見てみた。当然ながら台湾かどこかで組み立てられたもので、日本のパソコンとは全然ツクリは異なっていた。端子に金メッキのピンなどというのは使っていないで、ブリキをピン形状に丸めたようなものだった。一番驚いたのはPC電源の内部の違いで、日本の電源回路の3分の1くらいしか部品がなかった。日本の電源は安全・堅牢を金科玉条として高度に作り込んでいたのであった。
PC互換機と9801の比較を全部書くと本になるくらいだし、それは部品が違うというよりも、IBMとNECのパソコンの考え方の違いが大きくて、「なるほど」と感心させられた点が多くあった。一言で言えば日本は「作り込む」、アメリカは「使いまわす」という傾向があった。その後LSIも日本は作り込むアナログを得意とし、アメリカは回路のモジュール化をしてLSIもCADで組み換えられるものにして、今のSystem-on-a-chip(SOC、SoC)の時代につながっている。
このSOCは冒頭の電子機器の難所であったハーネスや実装作業を「ほぼ不要」にしてしまうもので、当然ながら機器の値段は2桁3桁も下がってしまう。486の互換機程度をSOCにすれば1000円くらいだろうから、9801の1000分の1である。こういったおかげで、身の回りには一見「小物」のようでもその機能としては高度な電子システムがあふれるようになった。
かつてはインテリジェント化、今はスマート化というような自動制御を低コスト低電力で実現できるので、そのためのネットワークとしてインターネットがさらに進化するといわれているのがいわゆる「IoT」なのだろう。
冒頭のアルバイトのような1点製作では「作り込み」は仕方がないのだが、広くビジネスをしたければ日本人も「使いまわし」上手にならなければ、IT立国を挽回することはできないだろう。
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