投稿日: Feb 04, 2011 11:56:48 PM
ネットマーケティングの前にすべきことがあると思う方へ
2月4日に、書店員が選んでベストセラーを生み出した「本屋大賞」を立ち上げた博報堂ケトル代表嶋浩一郎氏を招いて、ニュートラルな発想に基づいた課題解決法の講義をしていただいた。博報堂というとメディアの広告代理店でもあるわけだが、博報堂ケトルは媒体広告をとってくる会社ではなくコミュニケーションの道具にはこだわらず課題解決をする会社である。今は伝える道具が増えたので単に広告作品を作って掲載して済むのではなく、広告の先にWebやケータイに誘導して体験させるようなことが増えるが、それは生活者に自分の時間を使わせるものなので、企画する側としては単なる広告よりも責任重大になる。そこで従来のアイディアやアーチスト重視の企画ではなく、ニュートラルに考えることが大事になったという。
このために、広告のプロセスを、戦略→表現→メディア→SP/PR というバケツリレーや関係者の合同企画ではなく、1人あるいは少数で課題解決のコアアイディアを先に考えて、後でふさわしい道具を選ぶようにしている。課題解決とは、従来の広告がリーチとフリケンシーで評価をしているのに対して、レレバンシー(関連性)を重視し、対象が「これは自分に対するメッセージだ」と受け取るものを目指している。例えとして、Googleの、{eの値で、最初に出てくる10桁の素数}.com という求人広告の話があった。
本屋大賞は書店員が個人の資格で人々に読んでもらいたい本を投票する仕組みで、最初は「本の雑誌」のWebサイトで始まった。最初に投票で上位10位を選んで、それをもう一度読んでもらって2次の投票をしてもらっている。どうしても書店員の見るものに偏りはあるので、2次でフェアな比較になるのだろう。1次よりも2次で順位が上がるのは佳作だという。この結果は3月に書店員に知らされ、取次や出版社に注文がされて、4月に一般に発表されて、店頭では個別にフェアがされる。最初はボランティアで行われたが、今は本の帯に「本屋大賞」をうたう時に版元からいくらかもらうビジネスにしている。第1回から6回まですべての大賞受賞作品は100万部以上売れ、ノミネートされたものもすべて映画化ドラマ化などがされているという。
本屋大賞は、それまでの文学賞が大作家先生が選ぶものであったのに対し、売りの現場からベストセラーをだしてやろうということで、書店の参画意識の高揚と実際の現場の活性化のトリガになったものと思われる。ある意味ではソーシャルなムーブメントである。このあとに嶋氏からネットメディアのリテラシーの話があったが、情報発信側や広告側もあまりにも無定見にネットメディアを使っていて、その構造がどうなっているかを考えていないこととか、メディアが増えてもメディアの違いが見る人にとってどう受け取られるかを考えずに同じコンテンツを出すことも見受けられるという話があった。前述のコアアイディアを基に道具を選ぶ話に関連して、人が最初に押すボタン、最も効くツボを考えることの重要さが指摘され、それはメディアと人との関係がちゃんと捉えられていないと進まない。その点からするとBuzzワードを振りかざすネットマーケティングの逆のベクトルで始めなければならないと感じた。
話の最初に博報堂ケトルの自己紹介として、職場自身がいかに働く人を触発するようにデザインしているかを説明していただいた。また嶋氏自身の発想法も多く紹介していただいた。会社のカルチャーを作る努力とともに、自分もニュートラルに発想ができるように日々自分を調教しているようなお話で、実は企画は日常我々が見聞きするものの中から探り当てるのが王道であると感じた。毎日が発見の旅となるような暮らし方がニュートラルな発想には必要なのであろう。