投稿日: Jul 16, 2012 1:59:40 AM
移行措置と将来像の2つを考えるべきと思う方へ
学生のころに音楽の同人雑誌を出していて印刷屋にも出入りしていたのだが、後にその時の雰囲気を思い出したのが学会誌の編集で、同人誌のような作り方や規模のものがあった。日本の企業が研究開発を熱心に行っていた1970-80年代は学術雑誌の部数も増え、学会の数も増えていった。学術雑誌は全国的に大きく発展して英文出すようになったものやら、学会が細分化して世界の最先端に行ったものもある。このような伸び盛りの時代を経て、商業出版としての学術雑誌も増えて行った。私が関係していた印刷関係でも、学会の意向と、雑誌編集の意向がなかなか折り合わず、2重に雑誌が出ていたように、アマチュア対商業出版という難しさもあったようだ。世界的に見れば学術雑誌を専門に扱う大手出版社に論文が集中するようになって、アマチュアの同人誌的な学会誌の運営はどんどん難しくなっていたように思える。
1980年代から医学や法律など情報量が膨大で、疫病などで緊急性がある分野はオンラインデータベース化というのが発達した。それがWebの時代に入り一般の論文やアーカイブもネットで見れるものが増えていった。そして21世紀に入って学会や学会誌単位でのオンラインの電子ジャーナルが本格化し、大学などに広がっていった。当然利用者にとっても机の前に居ながら世界の主要な論文にアクセスできるので、利用という面では紙の冊子を上回るようになってしまった。
しかし電子ジャーナルのビジネスモデルは紙の媒体とはいろいろと違う面があって、利用者はまだ100%オンラインに軸足を置くところまでには至っていない。大口ユーザである大学図書館には決まった予算があり、そのやりくりの範囲内で電子ジャーナルの利用を増やすわけなので、提供側も紙の冊子とのバンドルモデルとか、その場合に紙媒体を不必要としたら電子版の値段を上げるとか、出版社としても電子化しても経営が傾かないように移行措置的な契約条件や価格設定を行っていて、現状をいくら調べても将来像は見えてこないように思える。特に実態としては単価面のメリットから寡占化した少数の出版社の大学単位のパッケージサービスに依存していて、必ずしも利用者である研究者の意向が反映しにくくなっているのではないかと思われるところもある。
研究室の単位で個別の紙の冊子の購読をしていた時代には、利用者の必要にマッチングする媒体が選ばれたが、大手学術出版社のビジネスは大学単位で1冊単価の安い有名なジャーナルをたくさん読めるようにするものなので、かなり性質が異なる。極端にいえば大学が主要ジャーナルをとらないわけにはいかないという踏み絵のようなものが設定されてしまって、大学の財政から最大限引き出すように仕組まれていったようにも思える。
一方で論文の投稿者が金を出して、読む側が低額あるいは無料のオープンアクセスジャーナルもある。電子ジャーナルは投稿後査読が1ヶ月程度で終了し、論文のダウンロード数や引用数などの評価ができるので、品質管理が行いやすく、伸びていくことが見込まれる。このような新しいモデルと従来の紙を踏襲したジャーナルの間の競争は、結局は利用者が著者にもなるという媒体特性にフィットしたサービスができるかどうかになるであろう。
このテーマも少し詰めてから、電子出版再構築研究会 オープン・パブリッシング・フォーラム で採りあげて行きたい。
関連情報 2012年7月25日(水) 『出版のマーケティングを見直す 復刊ドットコム』