投稿日: Jan 02, 2011 11:2:26 PM
昨年末はNHK紅白歌合戦の裏番組ではないけれど、ついにネットで自慢のボカロを披露して、みんなで採点する紅白ボカロ歌合戦が実施された。何年か前に、某アイドル歌手が初音何がしの物真似をしていただけであったことが発覚したが、その頃からボーカロイドはアイドル系だけではなく、次第に実際の歌手に近い歌い方をするものが開発されるようになって、コマーシャルにはよく使われるようになった。ボカロの開発ツールも簡単なものがいっぱい開発されて、実際の録音からサンプリングして物真似ボーカロイドを作るものまで登場した。シンセの打ち込みと同じような考え方だ。
でもまだボカロは万能ではなく、演歌のように譜面をはみ出してコブシをグルングルン廻すような歌い方はできないが、やっと譜面を追いかけているようなアイドル系即席歌手よりはうまく歌えるようになっている。しかもボカロ開発は世界に広がっていったので、英語・日本語の壁もだいぶ低くなってきた。日本の歌手もどきボカロが流暢な英語で歌ったり、逆に今は亡きジョンレノンからサンプリングして桑田佳祐の歌を歌わせて、小野ヨーコから訴訟ざたになったこともあった。教育用としては学生が自分の声質をサンプリングして、それに合わせて学習教材が無理のない外国語の発声を教えてくれるものもできた。
ボカロだけでなく演奏の方も打ち込みがあるだけでなく、それに生をダビングすることで抑揚をつけて、少人数でも大規模な楽団風に作れるようになった。紅白ボカロ歌合戦はそういった演奏チームと、ボカロ開発が共同作業をして、しかもそれにCGアーチストがミュージックビデオを作るという、すべてがアマチュアのコラボレーションで成り立っている。しかも今まで何らかの作品発表をしてきた世界のアマチュアがネットでつながって行っているイベントだ。でもその半数は日本人で、レコード会社や過去の音楽事務所とは無関係に行っている。
生本番の本家紅白歌合戦と比べると、事前にじっくり調整を積み重ねられるボカロ歌合戦の方が、音楽的には厚みのあるものとなってしまった。シンセサイザーが実際の楽器では不可能な何十和音を作ることができるように、ボカロの音域もハモリも制限がないからだ。ボカロのそっくりさんを商業的に利用すると音楽事務所からクレームが来ることがあるので、ボカロの開発者は意地になって生歌手では声が出ていないところも出るように改良を重ねてきたきた結果だ。ボカロ技術は自分に合った外国語の発声の先生になっただけでなく、歌手にとっても弱点克服の先生になりつつあるといえる。
ボカロの発達は、レコードから音声部分を上手に消すことにも使われて、カラオケが不要になりつつある。さまざまなデジタル音楽技術が何をもたらせたか考えてみると、歌の練習がしやすくなって、生の人間が人前で歌を歌うことが増えたことだ。過去にはカラオケBOXに人があつまっていたが、今では駅前にもコーラス隊が立っていたり、いろいろなイベントの機会に生人間が歌を披露する機会が増えた。昔なら歌手を呼ぶことは容易ではなかったが、今はアマチュアのレベルが上がって、各職場にも音楽のボランティアのサークルがいっぱいできたからだ。
またボカロ開発のネタとして過去の歌手のレコードの見直しが起こって、実力のある人の歌は再び売れ出しているようだ。思えばTVの時代になって音楽はショウ化し過ぎていたのかもしれない。しかし音楽そのものにたいするこだわりは消えてはいなかった。それが音楽産業から音楽が解き放たれて明らかになったように思える。