快感ストーム(10)

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 亜里沙は母親にオナニーを見られた少女のように、あわててレシーバーをはずした。しかし、統和はとがめようとはしなかった。

「不安にさせてゴメン。以前から堂本オーナーにペアの解消を勧められていたのは本当だ。あの人は俺とメイを組ませたがっている。この話が出たとき、亜里沙に打ち明けるべきだったかもしれないな」

 亜里沙は思わず口をヘの字にした。統和を愛しているとわかったいま、素直になれない自分の反応をいまいましく思った。

「信じてほしいんだが、俺は亜里沙以外とペアを組むことなんて考えていない。ほかの女性プレイヤーを物色していたなんていうのも誤解だ。と、言葉でいくら説明しても納得はしてもらえないだろうな。もしも俺たちがテニスプレイヤーのペアだったとしたら、ここでケンカ別れしておわり。ペアも解消だ。だが、俺たちはセックスのプレイヤーだ。お互いの気持ちを確かめ合う方法ならある」

 統和はそう言いながら、持っていたレシーバーを掲げてみせた。

 亜里沙が何か言おうとしたとき、モニターから小林アナの悲鳴にも似た叫びが聞こえた。

『ものすごいスコアが出ましたーッ!! 暫定二位のノルウェーを大きく引き離す、スポーツセックス史上最高得点です! オランダの新星メーデル姉弟、すばらしい体験で一位に躍り出ました!』

 当然の結果だ、と亜里沙は思った。あのセックスのすごさはスコアで表せるものではない。本調子だったとしてもオランダペアに勝てるかどうかわからないと思えた。金メダルを取れなければクビだと言われている亜里沙にとって、普通なら心がくじけてしまうような結果だったかもしれない。ところがそうはならなかった。

『セックスをすることで人と人とが心も体も一つになってわかりあえる。そんな素晴らしさをぜひ知っていただけたらと思います』

 インタビューで統和が答えていた言葉。

 統和が目指す世界を一緒に見たい。そこに連れて行ってほしい。

 スコアは結果でしかない。目指すのはそこじゃない。

 統和と最高のセックスをしたい。セックスの感動を世界中の人に伝えたい。

 亜里沙は体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

「金メダルを目指すということではわたしと統和の気持ちは一つになってると思う。それで、言いたいことは二つあるってことだったけど?」

 統和は恥ずかしそうに目をそらした。

「それは金メダルを取ってから言うよ」

 二人はネクストプレイヤーズルームになっている王妃の寝室に入った。ここでは次に体験を行う選手が待機する。多くのペアはこの時間を使って前戯をしておくのだ。競技時間が20分しかないため、開始後に前戯から始めていたのでは時間が足りなくなってしまう。事前に気持ちを盛り上げておくのだが、盛り上がったまま競技を開始してしまうと平板な構成になってしまい、スコアが伸びなくなってしまう。いったんフラットに戻しておき、競技開始とともに素早く盛り上げるのが上位プレイヤーのテクニックだ。

 体験のシナリオは事前に何度も練習したとおり。変更はしない。5分30秒の前戯のあと、屈曲位で挿入、正常位にチェンジして一回目の射精、さらに対面座位で二回連続射精、競技内後戯には長めの30秒をあてる。

 オランダペアは正常位のみ、射精一回という極端にシンプルな、しかしスポーツセックスとしてはかなり攻めた構成で超高得点を叩き出した。よほどの自信がなければあんな構成にはできない。それに比べれば統和と亜里沙の構成はオーソドックスな恋人戦法だ。あるいはオランダペアのシンプル構成は上位ペアの動揺を誘う作戦だったのかもしれない。しかし、統和と亜里沙は臆してはいなかった。二人はそれぞれスコアよりも重要なものを賭けていたからだ。互いを信じる気持ちがいまほど必要になったことはない。どんな競技でも最後に立ちふさがるライバルは自分自身だ。

『いよいよ日本の誇るエース、三上須崎ペアが入場してきました。昨年のワールドカップでは60分と120分ロングで優勝、30分ショートでは惜しくも中国に一位を譲りましたが、初のオリンピックとなる今大会、予選を二位で通過しています。豊川さん、いよいよ日本チームの体験となりますが、いかがでしょうか』

『三上選手も須崎選手も世界のトッププレイヤーですから、どんな体験で魅せてくれるか楽しみですね。ただ、須崎選手はワールドカップのあと不調がつづいているとも言われていますので、そこがやや懸念が残るところではあります』

『回転ベッドの傍らに立ちます。おや? レシーバーですか? 三上、須崎、両選手ともレシーバーをつけるようです。これはどういうことでしょうか、豊川さん。ドイツペアと同様のデータセックスでしょうか?』

『これは意外ですね。須崎選手の不調と何か関連があるのでしょうか。あ、ちょっと待ってください。三上選手のチャンネルは須崎選手のトランスミッターに合わせられているようです。これはレシーバーの設定ミス……、いや、須崎選手のレシーバーも三上選手に合わせているようですね。これは互いに感覚共有しあうということでしょうか……? これはクロスシェアリング。しかも二人同時のクロスシェアリングのようです』

『男女が同時にクロスシェアリング? そんなことが可能なんですか?』

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