人妻セーラー服2 (09)

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 くるみの言葉はあまりに現実離れしていて、政宗くんの頭がついていけない。

 確かに『どんな償いでもする、気が済むようにしてくれて構わない』とは言ったが、なぜそれが一緒にラブホテルという話になるのか。

 呆けた表情の政宗くんの前で、くるみは腕組みをして、得意げに目を細めた。

「きみは剣道の試合で勝ちたいのよね? 龍星高校と言ったら昔からスポーツが強くて、剣道部だって全国上位レベルじゃん。なのに、インターハイの予選直前になって、突然のスランプで勝てない。それで悩んでいるんでしょ?」

「は、はい」

「スランプになった原因はあたし。まあ、無理もないわね。こんなに美人で可愛いあたしみたいな女子高校生に悩殺されてしまったのだもの」

 なに言ってんだ、この二十五歳の主婦は。

「悩みを抱えて不安でいっぱいのきみは、自分の気持ちをぶつける相手もいなくて、思わずあたしを襲っちゃったわけね。でも、それって、きみの心が弱いってことだよ。古代ギリシャの偉い人は言いました。『勝つは己に克つより大なるはなし』と。剣道の有段者なら分かってるはず。敵に勝つには、まず自分に勝つこと。きみはその煩悩にまみれた惰弱な精神を鍛え直さなくちゃいけない」

「確かに、自分の心の弱さを痛感しています」

 自信満々に話すくるみの態度に、いつしか政宗くんは師範から指導を受けているような気持ちになっていた。

「だけど、県予選は今週末と言ったわね。山ごもりや滝行をしているヒマはないわ。だから、ここは思いっ切り荒行をして、とことん自分を追い込む修行をするしかないの」

「あ、荒行……とは?」

 政宗くんは唾を飲み込んだ。

「いまからふたりでラブホテルに行くの。でも、絶対にあたしを襲ったりしちゃダメだからね。いい? 絶対よ。二時間! 耐え切ってみせなさい。きみのすべての煩悩の原因になってるあたしの魅力に抗ってみせなさい。それができてこそ、無念無想の境地に到達できる。それが本物の剣士よ」

「無念無想……。剣術の極意ですね。しかし、自分にできるでしょうか」

「きみが自分に負けてあたしを押し倒したりしたら警察に行くからね。きみが退学処分になるのは当然として、剣道部もインターハイどころじゃない。廃部よ。さっき痴漢行為をした時点でそうなっててもおかしくないわけだけど。すべてはきみの精神修養の出来にかかってる。どうする? 童貞の子には命がけの修行になるけど」

 政宗くんは両手の拳をギュッと握りしめた。

「やりますッ。やらせてくださいッ。死ぬ気でやり抜きます!」

 くるみもくるみだけど、政宗くんも大概だ。駅前で大声で『ヤラせてください』とか。

 とはいえ、政宗くんは真剣だった。

(なんと恐ろしく危険な修行であることか。しかし、県予選を勝ち抜くにはどんな修行にも耐える覚悟はある。それにしても、くるみさんはこんな自分のために、なぜそこまで尽くしてくれるのか。もしや、くるみさんは……。いや、いかん。この考えこそ諸悪の根源。煩悩そのものだ。断ち切らねば)

 男の子はカエルとカタツムリと子犬のしっぽでできているというけれど、高校生ともなればほぼ煩悩のカタマリ。この修業をクリアするのは簡単ではない。

 ところで、もちろん、くるみは政宗くんの精神修養なんかに興味はない。

 これほどまでに性の対象として求められることのスリルに酔っていたんだ。

 それはレイプ願望と言っていいわけだけど、もしも大人の男性が相手だったらこんな気持ちにはならなかっただろう。十歳近く年下の童貞少年だからこそだ。

 痴漢のつづきをされてみたかった。痴漢というのは言ってみれば挿入されることのないカジュアルレイプ。そのギリギリのスリルを味わいたいという願望が体を支配していた。

 実際に強姦されてしまって、本物のレイプ願望を体に刻み込まれてしまったら、一生苦しみつづけることになるんだけど、くるみはそんなこと知らないし、ほんとにレイプされるなんて思ってない。先週のあかねくんは大丈夫だったし。

 くるみは左手の薬指を見つめた。

 最初の日の失敗に学んで、JKコスプレするときは結婚指輪をはずしている。

(亮さん……。くるみを守ってください……)

 そう心の中で祈ると、政宗くんを連れて駅裏のラブホテル街へと向かった。

 一方、政宗くんの方は本当に修行をするつもりになっていた。それでも女子とラブホテルに入るなんて恥ずかしくてたまらない。そもそもラブホテルは十八歳未満は入れないのではないか。高校生が入ろうとしても止められるのではないか。そう考えると、すでに怖気づき始めていた政宗くんは気が楽になった。たぶんホテルで追い返されて、もっと危なくない修行に切り替えられることになるのだろう。そう思った。

 くるみに連れて行かれたのはリゾートホテルのようなおしゃれなホテルだった。いかがわしい雰囲気はない。フロント横のパネルで、くるみが部屋のボタンを押した。

 するとフロントのドアが開いて、太った中年のおばさんが飛び出してきた。

「あんたたち、高校生は入っちゃダメよ!」

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