「ねえ、おじさん。わたし、もなかさんとあずきさんとは、すごくなかよしになったんだよ。ふたりともすごくすてきな女性だわ。おじさんもそう思うでしょ?」
「ん? ああ、そうだな。栗原さんも桃山さんもとても優秀な人だ」
「ふたりが高校に通えるよう、援助したって聞いたわ」
「援助したのはお前のお祖母さんだ。あの人は寄付や援助が好きだからな。俺はお祖母さんの弁護士として手続きをしただけさ。この件では莉子のお母さん――那由多さんにも世話になった」
夏目のお祖母さんは不動産業を営んでいて、世の中がバブルと言われていた頃は悪どいこともしていたらしい。人助けに熱心なのはむかしの罪滅ぼしだと聞いている。
「ふたりにここで働くよう勧めたのもお祖母さんなの?」
「それは……」
おじさんはわたしが何を言いたいのか察したようだ。さすが、弁護士だけあって頭が切れる。
「それは俺だが――。莉子、お前はどこまで知っているんだ?」
「ぜんぶ知ってるって言ってるじゃない」
おじさんが唇をかんだ。
「じゃあ、おじさんがもなかさんとあずきさんを娼婦として扱ったのね? ふたりを援助した見返りに体を差し出すよう命じたのね?」
小中学生の女の子との援助交際をくりかえしていた栄寿さんの性癖を治すために、ふたりをセックスの練習台として雇ったのだ。許されることではない。
「命じたわけじゃない。ふたりには断る権利もあった」
と、おじさんは言ったけれど、自分でもその言葉を信じていないようだ。断ろうと思えば断れたのだということは、あずきさんから聞いているからそうだろう。でも、巨額の援助をしたあとで、ろくに身寄りもないふたりに、弟を助けてほしいとせまったのだ。対等な立場とは言えない。
「それに、ふたりともいつまでたっても栄寿とは、その――つまり、親しくはならなかったんだ」
「それで、きょうはふたりにもっとまじめにやれと催促しにきたんでしょ」
ちょっとひどいことを言ってしまったけど、おじさんの顔を見ると図星だったようだ。
「お嬢さま、そのことはもういいのですよ」
もなかさんが横からささやいた。
「いいえ、よくないわ。おじさんはふたりをとても傷つけたのよ。それは栄寿さんがたくさんの女の子を傷つけたのと何も変わらないわ。おじさんに栄寿さんを責める資格なんてない。同じことをしてるんだもの」
わたしの言葉におじさんはショックを受けた様子で、口ごもった。
わたしは夏目おじさんが悪い人だとは思ってない。栄寿さんのために自分にできることをしようと思っただけなんだと思う。女をセックスの道具として扱うような人だとは、本当は思いたくないんだ。
おじさんは深く息を吐き出すと、
「お前は俺にこのふたりに謝罪するべきだと言っているのか? それとも、ふたりとの契約を解消してほしいのか?」
「もっとメイドさんたちに感謝してほしいのよ。どうして男の人って、こんなに理屈っぽいのかしら。契約がどうこう言う前に、もっとふたりの気持ちを大切にしてあげてほしいわ」
謝罪するべきだと言っていたら、たぶんおじさんはそうしただろう。でも、気持ちを考えてあげてと言われて、どうしたらいいのかわからないみたい。
こんどはわたしがため息をついた。
「おじさん、契約ということなら、ふたりは立派に役目を果たしているわ」
もなかさんの体がぴくんと震えた。あずきさんは静かに微笑んだだけだ。栄寿さんは照れくさそうに頭をかいた。
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