夏をわたる風 (10)

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優奈は二日続けて学校を休んだ。

何度かケータイにメールしてみたが返事はなかった。

結局、冴子先生ははっきりしたことは教えてくれなかった。それは仕方のないことだ。でも、親友として本当のことを知りたかった。

留美はさやかと長いこと話し合った。優奈のためにできることがあるはずだ。だけど、答えはでない。

優奈のことばかり考えていた。そのせいか、留美は見知らぬ男に強姦される夢を見た。夢の中で留美は男の腕で押さえ付けられ、徐々に衣服を剥ぎ取られていくのだ。どんなに抵抗しても力ではかなわない。全裸にされて泣き叫びながら、留美はなすすべもなく犯された。

自分の悲鳴で目を覚ましたとき、留美は涙を流していた。しばらくの間、枕に顔を押し付けて、そのまま泣いた。

オナニーの経験もなかったので、セックスのときどんな感じなのかはよくわからない。でも、夢の中で感じた恐怖と絶望は、顔を洗って朝食をすませてからも、リアルな感覚として留美を苛んだ。

憂鬱な気分でいつもより早く家を出た留美は、電車を降りたところで、さやかに出会った。

「優奈、学校にくるかな?」

「ああ。きょうも休みなら、週末にお見舞いにいってみよう」

さやかも力なく答えた。

優奈が中学のとき男に襲われたことがある、というのはふたりのなかでは既定の事実になっていた。ただ、具体的なことは何もわからない。もしかしたら襲われたけれど未遂に終わったのかもしれない。でも、佐賀に告白されたときの優奈の様子からすると、楽観はできないように思える。腕を掴まれただけで失禁して倒れてしまうほどだったのだ。いったい、どれほど恐ろしい体験をしたというのか。だからといって、優奈に確かめるわけにもいかない。

留美もさやかも黙ったまま歩いた。

学校へと続く道には、登校中のほかの生徒たちがおおぜいいた。グループになって談笑している生徒も多い。遊びにいく相談や、恋愛の話、他愛のないバカ話をしている子たちもいれば、英単語の問題を出し合っている子もいる。

そうした会話を聞くともなしに聞いていた留美は、不意に佐賀圭一の名前を耳にして、話の内容に注意を傾けた。すぐうしろを歩いている何人かの女子生徒が、佐賀のことを話題にしていた。

「でもさー、あんただって佐賀くんのこと狙ってたんじゃないのぉ? 告白しちゃえばいいのに」

「バーカ、あたしはそんな命知らずじゃないって」

「佐賀って、好きな子いるんじゃなかったっけ」

「えーっ、ウソぉ」

「7組の子でしょ? すっごいカワイイ子いるじゃん」

佐賀が優奈のことが好きだっていうのが噂になってたんだな、と留美はなぜだか照れくさい気持ちになった。

「髪の長いモデルみたいな子いるでしょ。ユミさん……、ルミさんって名前だったかな。でも、それってただの噂でしょ?」

(おいおい、なんだそりゃ。なんでわたしが佐賀と噂になってんだよ)

さやかが留美を肘で小突いた。普通なら笑い話になるところだけど、いまはそんな気分にはなれない。

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