「だから、どうしてそれがきみたちとセックスすることになるんだ。きみたちを傷つけるだけじゃないか」
「だって、お父さんにできるのは、セックスすることだけじゃないの」
一瞬、お父さんの目が怒りに染まった。お父さんの体に緊張が走ったのがわかった。けれど、すぐにお父さんは自嘲するような表情になって、全身から力を抜いた。
「ねえ、お父さん。わたしとのセックスは気持ちよかったって言ってくれたよね。わたしもすごく気持ちよかったよ。初めての相手がお父さんで、わたしすごく幸せ。セックスって、とてもすばらしいものだと思うの。だから、セックスが悪いことだなんて思ってほしくない」
お父さんに抱きついて、体を押し付けた。お父さんはまだ戸惑ってる。
「ユキさんのことだってそうだよ。好きだったんだよね。きっかけはわたしの身代わりだったのかもしれないけど。ユキさんの方だって、お父さんのことを愛していたはずだよ。でなきゃ、最後までお父さんをかばったりするはずない。お父さんがユキさんを傷つけたのは、ひとつだけだと思う。それは、ユキさんとセックスしたことは間違いだったって言ってしまったことよ」
ユキさんとの関係がバレたとき、まわりの人たちがお父さんを責めたはずだ。だけど、ユキさんだけは、お父さんとは恋人同士なんだと主張したという。お父さんが意気地なしのヘタレだったから、ユキさんを守れなかった。セックスしたのは間違いだったと言ってしまった。それだけがお父さんの罪なんだ。
「もなかさんのことだってそうだよ。お父さんのことが大切だから。お父さんを助けたいと思ったから。だから、お父さんとセックスしたんだよ。なのに泣くほど痛い思いをさせて。初めてなんだから優しくしてあげなきゃダメなのに。自分のことしか考えてなかったでしょ? もう誰も傷つけたくないだなんて。ねえ、お父さん。誰も傷つけずに済ませることなんてできないのよ。だって、誰かと愛し合うためには、相手が必要なんだもの」
わたしは体を離すと、お父さんを見つめた。
「わたしね、まだ経験はすくないわけだけど、こう思うの。セックスでいちばん大切なのは、相手のことが好きだっていう気持ちよ。お互いに愛し合っているふたりが、大好きだっていう気持ちを伝え合うの。体と体が結ばれて、心と心が融け合って、愛しくてたまらない気持ちに包まれて、互いに分かり合える。これ以上ないくらいステキなことだと思う。このあいだ、わたしはそのステキな世界を垣間見た」
わたしは立ち上がって、お父さんから一歩離れた。
「でもね、気持ちを伝え合うにはそのための技術も必要だと思うんだ。だから、お父さん。ママから教わったテクニックでわたしたちを気持ちよくさせて。わたしたちを好きだという気持ちがあるなら、はっきり伝えてほしい。わたしたちもがんばるから」
考えたって答えは見つからない。それはきっと心の奥に、言葉にはできない形で眠っているんだ。けれど、そこへ辿りつく方法なら知ってる。
お父さんは呆気に取られたような顔をして、わたしを見つめていた。それからうしろを振り返り、もなかさんとあずきさんの顔を交互に見た。ふたりのメイドさんは優しく微笑んだ。
「ぼくは許されるんだろうか?」
「栄寿さま、あなたは多くの人の許しを乞わなくてはならないでしょう。そして最終的には、ご自分を許してあげなくてはいけません。それまで、お力にならせてください」
もなかさんが立ち上がって、うしろで結んでいたエプロンの紐をほどいた。エプロンをはずして足元に置くと、あずきさんがそれを丁寧にたたんだ。
お父さんが慌てて、
「ちょっと待って。本当に、その……」
もなかさんはお父さんの前にしゃがみこむと、
「脱がせてください、栄寿さま」
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