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「不倫相手の部長さんが婚約者の父親だったんでしょ? 職場での噂を調べてたらひなちゃんのファンになっちゃった。それがきっかけで婚約者の母親にバレた。おおかた家でひなちゃんのDVDが見つかったんじゃない? 母親の方とは会ったことあるんでしょ? 旦那が集めてるエロビデオのぜんぶに息子の婚約者が出てるんだから、さぞショックだったでしょ。父親の方もひなちゃんの秘密を知って息子の嫁にはちょっと、って思ったでしょうし。息子の婚約者と不倫セックスしてたなんてバツが悪いだろうしね」
「でも彼と部長は苗字が違うし……」
「婿入りした人だって言ってたじゃん。結婚して苗字が変わっても会社では旧姓で通してる女性はいっぱいいるよ。男だってそうでしょ」
小春ちゃんの説明でようやく合点がいった。
たしかに運が悪かったみたい。
だけど、やっぱり釈然としない。
「はあー、けっきょく、わたし、捨てられたってことだよね」
「部長さんも不倫相手としてそれなりにひなちゃんを守ってくれたんじゃない? 何もなかったことにしてくれ、って口裏合わせしなきゃ、不倫のこともバレて慰謝料も請求されるところだったかもしれないよ。婚約者の父親との不倫、しかも元AV女優となれば、かなり悪質と判断されて三百万か四百万くらいじゃないかな」
そうかもしれない。
わたしはテーブルに顔を伏せた。
「二十代のうちに結婚したいのに。あうう、結婚したい。結婚したいよぉ」
「ひなちゃんがそんなに結婚願望が強いとは知らなかったな」
「だって、結婚しないとダブル不倫を体験できないもん」
「あのねぇ、ひなちゃんッ」
「ううー、母子家庭育ちで、初体験は小学生のときだし、集団レイプされたこともある。援助交際に不倫もいっぱいしてるし、元AV女優だし、3Pも好きだし。こんなだから同性からは嫌われてて友達いない。中絶経験もあるし。わたしって結婚相手にしちゃいけない要素満載のメンヘラ地雷女じゃん。フーゾクの経験と前科はないけど、こんなわたしじゃ永遠に結婚できないのかな。お母さんは再婚できてるのに」
「まあ、フーゾク嬢はAV女優と違って映像が残らないから。男性はそういうの気にするみたいだからね。ひなちゃんは無修正版も流出してるし」
そうなんだよなぁ。高校一年で初体験なら許容できるけど中学までに初体験してる女はダメとか、性被害に遭った過去があっても受け入れられるけど集団レイプされた女はムリとか、不倫経験のある女は結婚してもどうせ浮気するからイヤとか、いろいろ細かいことにこだわる男が多いんだよね。
「はあ~、やっぱりお父さんかお兄ちゃんと結婚したい」
「またまた意味不明なことを言い出して」
「いまのお父さんとは血の繋がりがないし、養子にもなってないから法律上は結婚できるもん。お父さんは雛子のこともまとめて面倒みてやるっていってくれてたし、もうエッチだってしたし」
「家庭内不倫かよ。大丈夫なのか、それ」
「お母さん公認だから大丈夫。お兄ちゃんの方は半分だけ血が繋がってるけど、戸籍上は他人だから結婚しても大丈夫だし、もうエッチだってしたし」
「したのかよッ。大丈夫じゃないだろ、っていうか、ひなちゃんの腹違いのお兄さん、もう結婚してるでしょ」
「だけど、妹との不倫がバレて離婚したら結婚できるもんッ」
「ひなちゃん、ちょっと落ち着いて――」
小春ちゃんはまだ何か言いかけたけど、言っても無駄だと思ったのか、言葉をのみこんだ。そのあとしばらく黙っていた小春ちゃんは、大きく息を吐き出すと、
「さっき同性から嫌われてるって言ってたけどさ、ひなちゃんだって友達いるでしょ、わたしとか」
と、すねたような口調で言った。
顔をあげると、小春ちゃんはすこし照れたように髪をいじっている。
ほんとにかわいい子だ。もしもわたしがバイじゃなくてちゃんとした同性愛の女の子だったなら、きっと小春ちゃんのパートナーになりたいと思ったんだろうな。
「きょうは話を聞いてくれてありがとね。ちょっと元気でてきたよ。小春ちゃんのおかげだね。エヘヘ」
小春ちゃんはさらに照れて顔を赤くした。
「ひなちゃん、もっと話したいことあるでしょ。よ……、よかったら、きょう、わたしの家にくる? わ、わたしでよければいくらでも話聞くし……」
胸の奥にあたたかいものがひろがる。
そうだね。友達はいるね。
「うん、行く。わたしも小春ちゃんとセックスしたい」
「ば、ばか、わたし、セックスなんてひとことも……。ひさしぶりにひなちゃんと会ったから、いろいろ話したいこともあるってだけで――」
「うん、ひさしぶりだからきっと燃え上がるよ。きょうはいっぱいセックスしようよ。それとも、もうわたしとはセックスしない?」
「い、いや、するけど――」
わたしは両手で頬杖をついて、小春ちゃんが照れる様子を笑顔でながめた。
「小春ちゃんが友達でいてくれてうれしい。大好きだよ」
小春ちゃんはますます真っ赤になって、ほっぺたをふくらますと、手を伸ばしてわたしのおでこをぐりぐりした。
おわり
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