人妻セーラー服(13)

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 くるみにキスしたい。力いっぱい抱きしめて可愛らしい唇を吸いつくしたい。

 だが、この女にとってキスは一緒に風呂に入って手コキするよりずっと重い意味を持っているのにちがいない。好きでもない男にくるみが無理に差し出そうとしているキスを受け取ることはできない。

「ふん、亭主のいる女となんかキスできるかよ。だいたい、くるみ、出会ったのが俺だったからよかったものの、普通なら気絶するまでレイプされまくってソープに売り飛ばされてるところだぞ」

 くるみが安堵に顔をほころばせた。あかねくんが顔を赤らめると、くるみはあかねくんの胸に飛び込んだ。

「出会ったのがあかねくんでよかった。きょうはあたしに付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」

 こうしてホテルを出たふたりは駅で別れた。あかねくんは改札でくるみを見送ったあと、大きなため息をついた。

(やっぱりキスしておけばよかったかな)

 などと思ってみたりしたが、やはりそれは自分らしくないのだろうと考え直す。

 ひとりの少年がすこしだけ大人になった瞬間だった。

 あかねくんは自覚してるよりずっと傷心だったのだけれど、いい男というのはヤセ我慢ができるものなのだよ。

 一方のくるみは駅のホームでバッグからスキンの箱を取り出した。もしもあかねくんが約束を破って襲いかかってきたら、力ではかなわない。そのときは「抵抗しないからゴムをつけてください」と言うつもりでいた。

(これを使うことにならなくてよかった)

 箱をゴミ箱に放り込むと、スマホを取り出して亮さんにメッセージを送った。

『早く帰ってきてほしい。くるみは寂しいです』

 ワガママなのは分かってる。

 だけど、ずっと聞き分けのいい子でいるなんて無理だ。

 亮さんを困らせるつもりはないけれど、寂しい気持ちは分かってほしい。

 メッセージの返事はなかった。トラブっていると言っていたから手が離せないのだろう。くるみはちいさくため息をついて、バッグにスマホをしまいこんだ。

(今夜は亮さんの好きな手作りハンバーグにしよう)

 新婚なのに夫の帰りが遅いのは寂しい。だけど、くるみと亮さんはお互いを大切に思っている。ラブラブ夫婦ぶりは友人たちからからかわれるほど。

 セーラー服を着ての大冒険は終わり。

 しあわせな日常に戻るのだ。

(でも、その前に――。冒険旅行のお土産があってもいいよね)

 くるみは電車に乗ると、自宅の最寄り駅を通り越して、別の街へと向かった。

 そしてランジェリーショップへ行った。亮さんを誘惑するところを想像しながら下着を選ぶ。買ったのは、エッチで可愛いベビードールを二着、セクシーなスリーインワンを一着、ふわふわブラジャーと紐パンを三着。おっと、ガーターストッキングも忘れちゃいけない。

 セーラー服の女子高生がセクシーランジェリーをまとめ買い。

 ショップの人はなんて思っただろう。

 また電車に乗って、自宅のある街へ。

 女子高生から主婦になって、スーパーでお買い物。

 家に帰ったときには夕方の六時を回っていた。もうじき日没だ。部屋の中はカーテンを開けていても薄暗い。着替える前に買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。すぐに、洗濯物が干しっぱなしだったことを思い出した。くるみはセーラー服のままベランダに出て洗濯物を取り込んだ。それを畳んで片付け終わった頃には、すっかり日が沈んでいた。

 そのとき、玄関のドアのロックが解除される音がした。

 え? と思ったときにはもう遅かった。

「ただいま」

 という声とともにドアが開く。

 あわてて隠れようと無駄な努力をするくるみ。しかし、リビングに入ってきた亮さんに見つかってしまった。

「ただいま、くるみ――」

 セーラー服姿の妻を見つけて固まってしまう亮さん。

 セーラー服姿を夫に見られて固まってしまったくるみ。

「く、くるみ……?」

 ひゃぁぁぁっ!!

「ち、ちがうのッ。これわ……ちがうのッ」

 両手をバタバタさせるけど、それでごまかせるわけもない。しかたなく、くるみは深呼吸をして心を落ち着かせ、コホンとひとつ咳払いをした。そして、きびしい視線で亮さんをキッと見つめた。

「あたしは前川くるみ。七年前の世界からタイムマシンに乗ってやってきましたッ」

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