夏をわたる風 (22)

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留美は優奈を抱きしめていた。涙があごの先からしたたりおちて、留美と優奈の乳房の隙間にしみこんでいく。優奈の体は冷たかった。冷房のせいだけじゃないだろう。

「さやちゃんも友だちになってくれた」

優奈は淡々と話を続けた。さやかがふたりを包み込むように両腕で支えてくれていた。

「友だちができたのは何年ぶりだろうって思った。それから、圭一くんと知り合った。圭一くんと話してると楽しかった。何かが楽しいって思えるのが、すごくうれしかった。もう大丈夫なんだって思えた。生き延びたんだ、乗り越えられたんだ、って思えた」

そこで優奈が声をわななかせ、留美の肩に顔を押し付けた。

「でも、まだダメだった。わたし、圭一くんのこと好きだったのに……」

優奈は抑えていたものが爆発したように泣き出した。

留美は鼻水をすすりながら、赤ん坊をあやすように優奈の体をなでた。小さな肩を震わせる優奈はとても弱々しく感じられた。

優奈の話は照美に聞かされていたものよりずっと過酷な内容だった。でも、留美は照美のときのようには感情をかき乱されなかった。

心の底から守りたいと思った。優奈のことが愛しいと思えた。優奈を包みこんであげたい。優奈の笑顔が見たい。そんな気持ちでいっぱいだった。

「優奈……、辛かったね。苦しかったね。でも、もう大丈夫だよ。わたしとさやかがついてる。だから、安心していいんだよ」

泣きじゃくる優奈がすこし落ち着きを取り戻してくると、留美は優奈の顔をあげさせた。優奈の泣き顔を優しく見つめて、

「よく聞いて。わたしは優奈のことが好き。いつもそばにいたい。ううん、あなたをひとりにはさせない。愛してる、優奈」

さやかが横から笑い声をあげた。

「あたしも優奈のことが大好きさ。留美と優奈はあたしのいちばん大切な友だちだ」

「留美ちゃん、さやちゃん」

優奈はうれしそうに泣き笑いして、留美とさやかをぎゅっと抱きしめた。

「じゃあさ、いつまでも変わらない友情の証にキスしようか」

さやかがそう言って留美にいたずらっぽい目を向けた。どこまで本気なのやら、と留美は思ったが、こうして全裸で抱き合っていると、友情のキスというのに興味をかきたてられた。でも、さすがに女どうしではどうかと思う。

「わたしたち、さっき餃子を死ぬほど食べたところだぜ」

「全員同じ臭いをさせてるんだからいいだろ。だいたい自分じゃ臭いなんて感じないんだしさ」

優奈を見ると、顔を赤らめてじっと留美を見つめている。

留美は大きく息を吐き出すと、

「じゃあ、まず、さやかとわたしな」

留美はさやかと向きあって座った。さやかがおでこをくっつけて留美を見つめた。シャンプーの匂いと、なんだか甘い香りがした。女どうしとはいえ留美にとってはファーストキスだから緊張する。さやかは留美が固くなっているのを察して微笑んだ。それから留美の肩を掴んで、

「好きだ、留美。ずっと親友でいてね」

キスされた。柔らかい唇の感触に目を閉じる。さやかの小ぶりな乳房が留美の形の良い乳房に押さえ付けられた。留美もさやかを抱きしめて、体を密着させた。するとさやかが体重をのせてきて、留美は抵抗することなく仰向けになった。さやかはキスしたまま体を重ねてきた。アソコの毛が触れ合った。舌を入れられて、留美はとまどったけれど、結局は受け入れて、すべてをさやかに委ねた。

さやかが唇を離したとき、留美は夢見ごこちで、もっともっとキスしていたいと思った。

「愛してる、さやか。これからもずっと。お前がいてくれて本当によかった」

留美は体を起こして優奈を見た。優奈はふたりのキスシーンにびっくりしたようだった。友情のキスにしては熱烈すぎたからだ。でも留美はこういうのもありだなと思った。留美も正直さやかがここまでするとは思ってなかったのだけれど、ふたりを愛しいと思う気持ちを表すにはこれでも足りないくらいだ。

「しよう、優奈」

優奈は小さくうなずくと、留美に抱きついて、幼い子供のように甘えたキスをしてきた。留美は優奈を強く抱きしめた。優奈が安心できるように強く。さやかにされたように舌を絡ませて、深く熱いキスをした。

停学になってからずっとわだかまっていた焦燥、不安、やり場のない怒り。そういったものはいまはもう感じない。優奈と肌を合わせていると、深いやすらぎを覚えた。

優奈の苦しみが癒えるのにはまだしばらく時間がかかるのだろう。でも、きっと大丈夫だ。自分とさやかと、三人で乗り越えよう。

全裸でいると心まで無防備になった気がする。裸にされた意味がわかったように思えた。

結局、さやかはいつも正しかったわけだ。

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[夏をわたる風]

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