第11話 恋のデルタゾーン (11)

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 土曜日の午前中、梨沙に会いに行った。同じ男に開発された援交少女として、恋愛観を聞いてみたいと思ったんだ。

 駅前で待ち合わせて、そこからふたりでロープウェイに乗った。眼下にはデートで何度も往復した遊歩道が見える。気持ちのいい景色だ。梨沙と知り合ってから、この辺りで援交することも多い。運河を見下ろしながら、あたしを抱いた男たちのことを思い浮かべた。

「このゴンドラ、ガラス張りで外がよく見えるね。この中でエッチなことしたら野外露出みたいな気分で興奮するかも」

「このあいだ、お客さんとやってみたことあるけど、時間が足りなすぎだった。エッチなことするなら、あっちの観覧車の方がまだマシだよ」

 と、梨沙は真顔で言った。自宅が近いのによくそんなことできるなと関心した。

 穂波梨沙。ミッション系のお嬢様学校に通う美少女高校生だ。婚約者がいるのにスリルを求めて性の冒険を繰り返している梨沙が、普通の女の子らしい恋愛をどう思っているか気になったのだけれど、

「わたし、ずっと女子校だから同年代の子との恋愛って経験ないな。知り合う機会がないしね。それに、年上の男性が好きだから、高校生の男子には興味ないもの」

 と、まったく参考にならなかった。

「あ、身を焦がすような熱い恋の経験ならあるよ。奥さんがいる人で、わたしのことなんか子供扱いしてぜんぜん相手にしてくれなかった。わたしが同年代の男子を子供っぽいと思うのと同じ気持ちだったのかもね。片想いでも素敵な経験だったな」

「高校生の童貞くんの筆おろしをしてあげるのも楽しいよ。そういう興味はないの?」

「童貞……、童貞くんか……。年下……、男子中学生……」

 梨沙はなにやら怪しげな単語をつぶやきながら考え込んだ。

「そう言われるとちょっといいかも。おねショタというやつよね。ねえ、沙希は3Pには興味ある? 経験はあるかしら?」

「なによ、唐突に。まあ、あたしは集団強姦されたことがあるから経験はあるけど。女ふたりの3Pは経験ないな。男ふたりは援交では経験ない。和姦の3Pはしてみたい気持ちもあるけど、ちょっと怖いかな。梨沙はよく3Pしてるの?」

「ううん、わたしは経験ない。そして経験したいと思ってる。沙希となら、女ふたりの3Pができるかなと思って。きょうの午後、素敵なおじさまと援助交際するけど、もしよかったら――」

「ハハハ、きょうはやめとくよ。だけど、梨沙とならそういうことしたいかも。また機会があったら誘ってよ」

 ロープウェイは五分ほどで終点に着いてしまった。あたしたちは公園を散歩したり、ウインドーショッピングをしたりしながら、セックスについてのおしゃべりを楽しんだ。

(普通の恋をしたい女の子はこんな話で盛り上がることはないんだろうな)

 などと自嘲気味に思ったりもしたけど、梨沙と遊ぶのは楽しかった。

 早めのランチのあと、梨沙は援助交際の前にシャワーを浴びて着替えるからと、家に帰っていった。

 駅で梨沙を見送ってひとりになると、駅から海を渡る遊歩道を通って歩きだした。さっき往復で乗ったロープウェイはこの遊歩道に沿って運河を渡っている。たくさんのちいさなゴンドラが列をなして空中を移動していく様子を見上げながら、あしたのデートでまた乗ることになるのかな、と思った。

 梨沙と待ち合わせたのと同じ場所であしたは大川先輩と待ち合わせ。あたしは運命は信じてるけど偶然は信じない。とはいえ、この辺りは観光地で都会のデートスポットだし、梨沙はこの近くの高級住宅街に住んでいる。だから、待ち合わせ場所が同じになったのは本当にただの偶然だ。それで、デートコースになるかもしれない場所をちょっと下見しておこうと思った。

 そしてそこで、あってはならない偶然に出会ってしまった。

 鉄橋の向こうから廃線跡に沿って遊歩道を歩いてくる二人組の男性。ひとりは大川先輩だ。もうひとりは学ランを着ている。土曜日の授業がある高校の生徒だな。友人か。

 あたしは急いで遊歩道の脇に逸れて、すっかり葉桜になった桜の木のかげに身を潜めた。こんなところで出会うわけにはいかないもんね。大川先輩もデートコースの下見に来たのだろう。先輩はあたしには気づいていない。

 ふたりが通り過ぎるとき、先輩といっしょにいる学ラン男の顔が見えた。

 電車の中であたしをナンパしてきた奴だった。

(なるほど、そういうことだったか)

 さして驚きは感じなかった。むしろ納得できたという感じだ。

 あたしはこっそり大川先輩たちの後をつけた。

 駅まで戻ると、ふたりは映画館の入っているビルに入った。なおも尾行をつづけると、大川先輩はチケットを買って映画館に入っていった。学ラン男は映画館には入らず、先輩に手を振って見送った。

 いやはや、デートの下見のために、デートで観る予定の映画まで事前に見ておくとは。見上げた努力家だと褒めるべきなのか?

 学ラン男がビルを出て駅の方に歩きだしたので、駅前広場を通って先回りする。

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