「また悠里と一緒にお風呂に入ったり、同じお布団で寄り添って眠ったりしたいよ」
「いつまでたっても姉さんは子供だなぁ。そんなんじゃ高校に行っても彼氏できないよ」
悠里が「姉さん」と言うようになったら、ちょっと本気モードになってきたってことだ。わたしは軽くキスをすると、くすくす笑いながら悠里から離れた。
悠里が弟じゃなくてお兄ちゃんだったらな。少女マンガみたいな、お兄ちゃんとの禁断の恋って、すごく憧れちゃうけどなァ。
悠里から見たらわたしは女かもしれないけど、わたしから見たら悠里は小学生の男の子だ。家族であるという点を考えなくても、悠里相手に性を意識することなんてない。
いいもん。初体験の相手として考えてる人は悠里以外にもいる。
わたしは立ち上がると、悠里に手を伸ばした。
「ねえ、パパに写真撮ってもらおうよ。一緒においで」
「えー? いいよ、ぼく」
「わたしが悠里と一緒の写真を撮りたいんだってば」
悠里の手を引いて部屋を出た。廊下から吹き抜けのリビングを見下ろすと、パパがパソコンとカメラをいじっているのが見えた。さっきまで、中学の卒業記念の写真を撮ってもらっていたんだ。
パパの本業はグラフィックデザイナーだけど、趣味が高じてカメラマンの仕事をすることもある。
わたしは階段を降りて、パパに駆け寄った。
「パパ、パパ、高校の制服着てみたんだ。ねえ、写真撮ってよ」
そう言って、悠里にしてみせたようにパパの前でくるっと回った。パパは顔を上げてわたしの姿を眺めると、うれしそうに笑った。
「すごくかわいいな、莉子。その髪型も似合ってるよ」
「えへへ。ねえ、誕生日はまだだけど、久しぶりにヌードも撮ってほしいな。中学生最後のヌード。悠里も撮ろうよ」
わたしの後ろについてきていた悠里は怒ったような声で、
「ぼく、裸はやだよ!」
と言うと、また階段を駆けのぼって部屋に戻ってしまった。
「もう、悠里ってば、なに怒ってんの」
「照れくさい年頃になってきたのよ。それに悠里は男の子だもの」
キッチンから戻ってきたママが笑いながら言った。
ママはいつも部屋着にランジェリーを愛用している。きょうはベージュに黒のレース飾りがついたベビードールだ。丈がすこし長めなので、スリップドレスのように見える。ハニーブラウンに染めてカールしたロングヘアが、歩くたびに優雅にふわふわと揺れた。
「最近の悠里はちょっと色気づいてるのよね」
「あんまりからかうなよ、莉子。男っていうのは意外とデリケートなんだぞ」
よく通る低い声で言いながら、パパが笑った。
パパは三十二歳。背が高くてハンサム。がっしりした体格だけど着痩せするタイプだ。チェックのシャツの袖をまくっていて、たくましい腕を見せている。短く刈った髪に精悍な顔つきだけれど目は優しい。
わたしはおろしたてのローファーを取ってきて、ウッドデッキに出た。パパも大きなデジタル一眼レフのカメラを手に外に出てきた。ママは窓のところに立って、わたしたちを眺めている。
うきうきするような晴れた空だ。
高級住宅街なので、あたりは静かで、小鳥のさえずりだけが聞こえる。
パパがシャッターを切った。それに気づいてカメラのほうを見ると、レンズ越しにパパに微笑みかけた。パパも笑いながらシャッターを切り続ける。
わたしとパパは血がつながっていない。
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