拓ちゃんはイスに座って興味深そうに、ときおり「うんうん」と相槌を打ちながら聞いていた。話を聞き終えると、腕組みをして「うーん」と唸ってから、会長を見つめた。
「つまり、岡野は文化祭でバニーガールのコスプレをしたい、というわけか」
「そうじゃないッ。何を聞いておったのだ、お前は。だいたい、お前はわたしのバニーガール姿に興味があるのかッ」
「すごく見てみたいな。きっと可愛くてセクシーだ」
と、拓ちゃんが真顔でからかうと、会長はまた言葉に詰まって真っ赤になった。どうやら、拓ちゃんの前ではいつもの自分になれないらしい。
「まあ、冗談はさておき、岡野がバニーガールの格好で校内を練り歩く前に、もう一度あのサイトを調べてみようか。生徒会のパソコン借りるぞ。ネットにつながるよな? ログインしてくれないか」
拓ちゃんは机の上にあったノートパソコンの電源を入れながら言った。
会長はログインパスワードを入力してパソコンを起動させると、
「言っておくが、あのランキングサイトはパソコンからはアクセスできないぞ。きのう試してみたがダメだった」
「知ってるよ。ケータイ以外からのアクセスを拒否しているんだ。スマホも弾かれてた」
拓ちゃんはブラウザをたちあげて、校内美少女ランキングのURLを打ち込んだ。すると、例のサイトが表示された。
「どうしてアクセスできるんだ!?」
「ケータイからアクセスしているように偽装したのさ。やり方さえ知ってれば簡単だ」
きのう、拓ちゃんはスマホでアクセスしてたことを思い出した。とすると、写真部の赤坂さんがタブレットでアクセスしてたのも同じテクニックなのか。
「岡野の推理だと、管理人は女子に縁のないオタク男子だったな。ところで、この真木の写真だが、沙希の話だと、女子高生向けのファッション雑誌に載った写真をケータイのカメラで撮影したものだろ?」
「うん。同じ写真が載った雑誌を書道部の人が持ってた」
「男子生徒がそんな雑誌を買えると思うか? 俺は恥ずかしくて無理だな。熱心なファンなら買えるかもしれんが、そんなファンならほかの女子と同じように頑張って盗撮するはずだ。その労を惜しむわけがない」
勝手な決め付けなような気がしないでもないけど、説得力はある。
「鳴海は、管理人は女子生徒だと言いたいのか?」
「仮に女子だとすると、望遠レンズ付きの一眼レフを持ってるような女だ。写真部に所属しているだろうな」
「写真部に女子部員はいない」
「うむ、そうだろうな。さてと、この写真にはGPSのデータが埋め込まれている。それを調べれば、この写真がどこで撮影されたのかがわかる」
「GPSで撮影場所は特定できないよ、拓ちゃん。写真部の部長さんが言ってた。校内ってことはわかっても、誤差がおおきくて細かい場所はわからない、って」
「この写真は校内で撮られたものじゃないのさ」
と、拓ちゃんはパソコンの操作をつづけながら、
「管理人が男子生徒で、男が買えないような雑誌を見ようと思ったらどうする? 知り合いの女子に頼んで見せてもらうか。管理人が女子に縁のないタイプだとしたら、それもできない。では、どうしてその雑誌を見ることができたのか。管理人には姉か妹がいたにちがいない。家にあった雑誌をこっそり撮影したんだ」
そこで言葉を切ると、拓ちゃんはパソコンの画面をあたしと会長の方に向けて、意味ありげに微笑んだ。
「――と、いうのは、ぜんぶ岡野たちの考えた管理人像が正しいと仮定したならば、ってことだけどな」
あたしは画面をのぞきこんだ。ブラウザ上に地図が表示されていた。地図の中央付近には赤いマーカーがいくつも重なるように表示されていた。
意味はすぐわかった。GPSの位置情報から割り出された撮影場所が示されているんだ。マーカーが指しているのは商店街の外れにある民家だった。誤差のせいで道路にはみ出しているマーカーもあったけど、犯人が雑誌を撮影した家はここにちがいない。つまり、これが犯人の家だ。
「これで住所を特定できた。問題は住所がわかっても、そこに住んでいる生徒の名前はわからないってことだ。どうする、岡野? お前がどうしても管理人の正体を突き止めたいというなら、奥の手を使って調べてやるけど」
「奥の手? ――って、まさか学内ネットをハッキングして生徒の名簿に不正アクセスしようというのか。鳴海がコンピューターに精通しているのはわかったが、非合法なことは許さんぞ」
[援交ダイアリー]
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