第15話 ロンリーガールによろしく (04)

[Back][Next]

 学校なんて行かなければよかった。さっさと不登校になっていれば、陰口を言われるだけで済んでいたのに。

 ちゃんと学校に通っていれば、お母さんが迎えにきてくれる――。

 どうしてそんなふうに信じ込んでしまったんだろう。

 陰口から始まったイジメは、教科書に落書きされたり、体操服や上履きを隠されたりといったことが日常になった。教室にいると理由もなく叩かれたり、スカートをめくられたりする。羽交い締めにされてパンツを脱がされることもあった。

 あたしは休み時間にトイレに隠れるようになった。

 しばらくはそれで難を逃れることができた。個室に入ってカギをかけ、誰かが入ってきたときはじっと息をひそめて出ていくのを待った。その時間もつらいものだった。だいたいの子は友達と連れ立ってトイレに来るので、おしゃべりが聞こえる。そのたびに自分が一人ぼっちだと思い知らされるのだ。

 そうして何日かが過ぎたとき、いつものように隠れていると、いきなり上からバケツで水をかけられた。外から笑い声が聞こえた。新垣たちの声だ。あたしは歯を食いしばって声を出すのをがまんした。やがて話し声が聞こえなくなると、ドアのカギをはずした。その瞬間、ドアを押し開けられ、外に引きずり出された。

 新垣たちは立ち去ったと見せかけただけで、あたしが出てくるのを待ち受けていたのだ。新垣は「最近、付き合い悪いじゃないの。トモダチはうちらだけのくせにさぁ」と、ニタニタ笑いながら言った。伊原と真壁に押さえつけられ、新垣にスカートとパンツを脱がされた。アソコをいじりまわされた。暴れると水で濡れた床に押し倒された。口をふさがれ、お腹の上にのしかかられた。だんだん抵抗する気力もなくなり、押しのけようとする腕にも力が入らなくなってしまった。

 その様子を新垣がケータイで動画を撮影していた。

 早く授業開始のチャイムが鳴ってほしい。そう祈りながら、抵抗するのをやめた。するとゼンマイ仕掛けのおもちゃのようなジュィィィンという音がしはじめた。恐怖でハッとなった。小学生のときに何度も聞かされた音。バイブレーターの音だった。「これ、うちの姉貴が隠してたやつ。何するものか知ってる?」と、新垣がグイングインとスイングするバイブレーターを見せつけた。それをアソコにねじ込まれた。男たちに犯され、アソコをもてあそばれた記憶が生々しく蘇った。あたしの気持ちとは裏腹に、体はどうしようもなく快感を感じてしまっていた。

「おい、こいつ処女じゃないんじゃない? 痛がらないし血も出ない」

 と、誰かが言った。

 バイブレーターが抜かれ、音がやんだ。あたしはすすり泣きをするだけで、起き上がる力もなかった。あたしを見下ろす三人の目は汚物を見る目だった。

 新垣がしゃがみ込んであたしの髪をつかんだ。

「鳴海、あんた、もう男を知ってるって本当だったんだな?」

 あたしは目を閉じて顔をそむけた。新垣はそれを肯定の意と受け取った。

「何人くらいヤッたの? 一人? 二人? それとも……」

 何も答えなかった。涙があふれて頬を濡らした。

「こいつ、マジでヤリマンだったのかよ」

「うわぁ、引くわぁ、小学生のときからウリやってたってことか」

 と、伊原と真壁も驚きと侮蔑の声を出した。

 いちばん知られたくなかったことを知られてしまったというショックで何も考えられなかった。実際には何も知られてはいなかったわけだけれど、あたしが多くの男たちに穢されているのは事実だし、売春をしている子だとみんなが信じてしまったなら、事実がどうであるかなんて意味がない。

「鳴海、このことはうちらだけの秘密にしといてあげるからさ、そのかわり、バイブでオナニーするとこ見せてよ。親友なんだからそれくらいできるだろ?」

 新垣が優しい声音で言った。断ればいま撮影した動画をクラスの子たちに見せて売春のことをバラすと脅された。

 上半身も裸になるよう言われ、しかたなく濡れたブラウスとキャミソールを脱いだ。泣きながらバイブレーターをすこしだけ挿入した。手が動かないあたしに代わって新垣が強引に押し込んでスイッチを入れた。悲鳴をあげたけど笑いを誘っただけだった。バイブレーターをぐりぐり動かされ、「やめて、やめて」と泣き叫んだ。チャイムはもう鳴っていたけど、やめてくれなかった。そのあとの記憶はない。

 このときの動画がしだいに広まっていき、あたしが売春で補導されたこともあるヤリマンだと噂になった。

 トイレはもう隠れる場所ではなくなった。休み時間のたびにトイレに連れて行かれ、服を脱がされて性的イジメを受けた。いつのまにか、あたしは便所女というあだ名で呼ばれるようになっていった――。

 あの新垣千鶴がバイク事故で両足切断の上に全身マヒだって? これが笑わずにいられるものか。橋田さんの葉書を読み返してみた。病院の場所も書いてある。

 新垣に会って、直接「ざまあみろ」と言ってやりたい。

 心の奥の昏い欲望に火がついた。

[Back][Next]

[第15話 ロンリーガールによろしく]

[援交ダイアリー]

Copyright © 2022 Nanamiyuu