もなかさんが脇から栄寿さんをつっついた。
「栄寿さま、柊莉子さまですよ。姪御さんの」
「え? あ、ああ、わかってるよ、もちろん」
我に返ったように栄寿さんが答えた。
わたしと栄寿さんはテーブルに着いた。あずきさんがシフォンケーキの用意を終わっていなかったので、もなかさんが紅茶の準備を始めた。
「莉子ちゃんは、いま高校生なんだっけ? 栗原さんと桃山さんとは、もう紹介は済んでるんだよね? ふたりともぼくの身の回りの世話をしてくれてるんだ」
栄寿さんはパジャマのようなゆったりした服装だった。もしかすると本当にパジャマなのかもしれない。やっぱりわたしは女としては見られていないんだな。
「どちらが本命なんですか?」
どう答えるか迷っていた栄寿さんは、結局、大笑いして、
「ふたりとはそういう関係じゃないんだよ」
「でも、エッチなことしてる、って、あずきさんが……」
もなかさんがあずきさんを睨みつけた。
「あなた、莉子お嬢さまになんてこと言ってるのよ!」
「あはは、つい……。でも、莉子ちゃんも高校生なんだし、性的な話題だって別に構わないだろ? そんなに怒らないでよ」
わたしはため息をついた。
「わたし、まだ高校生になってないんですよ」
別にみんなの間違いを訂正しようと思ったわけじゃない。ただ、もなかさんやあずきさんに比べて、もろ子供なわたしを自嘲するような気持ちだったんだ。
「このあいだ中学を卒業したばかりで。誕生日は来週なんで、実はまだ十四歳なんです。まだ中学生みたいなもんですよ。まったく、子供っぽいですよね」
わたしがそう言うと、三人に緊張が走った。紅茶をカップに注いでいたもなかさんが、何をそんなにびっくりしたのか、手元を狂わせた。その拍子にティーカップをひっくり返してしまい、熱い紅茶がわたしのジャンパースカートにかかった。
「うわっ」
「も、申し訳ありませんッ、莉子お嬢さま!」
立ち上がると、お腹からスカートにかけてべっちょりと濡れてしまっていた。
もなかさんが慌ててわたしに駆け寄ると、
「火傷なさらなかったですか? すぐにクリーニングに出さないと。着替えを用意しますから、どうぞこちらへ。あずき、ここの片付けをお願い」
「大丈夫ですから。あの、栄寿さん、ちょっと失礼します」
そう言い残して、わたしはもなかさんに連れられて、三階へと上がった。
三階には四つの部屋があって、そのうちの一つに通された。
「ここはわたくしとあずきの部屋です。すぐに代わりのお召し物をお持ちしますから、濡れてしまった服をお脱ぎになってください」
そのままもなかさんは部屋を出ていってしまった。どうやら隣の部屋に行ったらしい。たぶん空いている部屋がクローゼットになっているんだろう。もなかさんたちの服を貸してもらうんだとすると、胸がぶかぶかになりそうだ。
その部屋は十畳ほどの広さだけど、大きなダブルベッドとふたつの鏡台が置かれているせいで、狭く感じた。雑然としていて、いかにもバックヤードという雰囲気だった。
「ふたりの部屋、なんだよね?」
わたしはダブルベッドを眺めてひとりごちた。わたしも自宅ではダブルベッドを使っている。でも、ふたりの部屋に一個のベッドってことは、もなかさんとあずきさんが同じベッドで寝てるってことだよね。
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