快感ストーム(03)

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「待ってください、堂本さん。いくらなんでも乱暴すぎます。ペアのことなら亜里沙の気持ちも考えないと。彼女はあなたがぼくとメイを組ませようとしていることを知らないんですよ?」

 あわてて反論する統和に、堂本氏はまったく動じない。

「須崎くんも一流のセックスプレイヤーだ。競技で結果を出せなくなったときの身の振り方くらいは理解しているだろう」

「まさか引退を迫るつもりですか」

 堂本氏はそれには答えず、険しい表情で統和の胸に人差し指を突きつけた。

「とにかく今夜は勝て! レゾナンスによるセックス体験も、競技としてのスポーツセックスも、発祥は我が日本だ。その日本の選手がオリンピックで他国に負けることなどあってはならんのだ」

 それだけ言うと、堂本氏は議論の余地はないという顔で広場の方へと歩み去っていった。

 残された統和は鼻の穴から息を吹き出して、「やれやれ」と首を振った。

 あたりを見渡したがメイの姿はどこにもなかった。統和は肩をすくめてベルサイユ宮殿の方へと歩き始めた。

(亜里沙とのペアを解消だって?)

 前々からそんな話は出ていたわけだが、堂本氏はいよいよ本気の様子だった。チームオーナーであり、日本のスポーツセックス界で絶大な力を持つ堂本氏である。金メダルを取れなければ亜里沙をクビにすると堂本氏が言うのなら、彼は本当にそうするだろう。亜里沙のいまの調子で金メダルを取れると、自信を持って言い切ることは統和にはできなかった。

 もしも亜里沙がクビになったなら――。

 まだ二十四歳で実力もある。オナニーに転向してもいいし、女性ペアに戻ってもいい。女子校出身でプレイヤーとしてのキャリアも女性ペアからスタートしたのだ。それを堂本氏に見出されて統和との男女ペアを組むことになった。もしかしたら、ほかのチームに移籍して別の男とペアを組むことになるかもしれない。

(それはちょっとおもしろくないな)

 と、統和はかすかに胸の痛みを覚えた。

 プロのセックスアーティストという道や、競技を離れてコーチになるという道もある。亜里沙がどのような選択をするのかは予想がつかない。どんな道を行くにせよ、統和が望むのは一つだ。

 人生のペアを組みたい、ということだった。

 亜里沙が統和のことを憎からず思っているのは確かだが、ペアを解消させられたら関係も薄れてしまうだろう。かと言って、競技に負けてクビになった状態でプロポーズしても、誇り高い亜里沙のことだ。跳ねのけられてしまうに違いない。

 そう考えると、このオリンピックで金メダルを取れるかどうかが、途端に人生の一大事になってきた。

 統和はメダルの色にはそれほどこだわってはいない。勝つことも重要だが、勝利より大切なものがある。それはいかに感動的なセックスで魅せるかだ。完璧なセックスをして体験を芸術の高みに引き上げること。常に至高のセックス体験を目指しつづけること。スコアは結果でしかなく、アーティストにとっての目標ではない。

 初体験をしたのは中学一年生のときだ。陸上部で短距離の選手だった統和は、部活指導員の若く美しい女性に誘われて筆下ろしをした。そのときの感動が統和の原点となった。その女性はエモスキャンで記録したほかの男とのセックスを統和に体験させた。統和は彼女をいちばんイかせるのは自分でありたいと、部活そっちのけで練習した。レシーバーをつけて彼女のセックスをリアルタイムでモニターしながら、どうすればもっと気持ちよくさせられるかを徹底的に研究した。ついに彼女を中イキで失神させたとき、統和は自分が目指すべき道を決めたのだった。

(こいつはどうも、どうあっても金メダルを取らなきゃならないみたいだな)

 簡単なことだ。金メダルを取ってプロポーズすればいい。それしか亜里沙を手に入れる道はない。学生時代からスポーツセックスに打ち込み、プレイヤーとして多くの女性とセックスしてきた統和だが、それゆえにというべきか、恋愛の経験は乏しく、女心の扱いにも長けてはいなかった。好きな女を振り向かせる方法などわからない。トッププレイヤーとしての自負だけが、統和に根拠のない自信をもたらしていた。

 心を決めてしまうと、統和は武者ぶるいした。体の内側が熱くなって、全身に力が満ちてくるのを感じた。

(俺は絶対に金メダルを取ってみせる)

 そう自分に言い聞かせたとたん、『俺は』ではなく『俺と亜里沙は』だと思い直した。

 ベルサイユ宮殿の一階に設けられた日本チームの控え室に行くと、亜里沙は紅林コーチからオイルマッサージを受けているところだった。ピリピリした様子で施術台に全裸で横たわっている。いまは声をかける雰囲気ではない。そこにメイが寄ってきた。

「三上さん、ウォーミングアップならメイの体を使ってください」

 もじもじしながら申し出たメイに、統和は亜里沙の方を一瞥すると、にっこりしてメイの肩を抱き、控え室を出て行った。

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