「なあ、雛子ぉ、ネーム書いてよぉ。小説家だろ。あんたが話を作って、わたしが絵を描く、ってのどお?」
「『バクマン』かよ」
「AV女優が言うと、すげえ卑猥に聞こえるな」
「そう聞こえるあんたのほうがおかしい。どっちにしてもやだよ。あんたは二次でわたしは一次。世界が違うだろ。それにコマ割りなんてやったことないし」
「はあー、そーだよなー」
美紗子はテーブルに突っ伏した。結局、くだを巻きたかっただけらしいな、こいつは。愚痴をたれて気分転換になるなら、いくらでも付き合ってあげるよ。
「一次の小説ってさぁ、萌え中心の二次と違って、自分の内面をさらけ出すってことになるよな」
と、美紗子がわたしのサイトを見ながらつぶやいた。
「言っとくけど、私小説なんて書いてないぜ」
「でもさ、自分の願望とか、人生観とか、男の好みとか、にじみ出ちゃうもんだろ? あと、性嗜好とか。こんなふうに抱かれたいィ、とか」
美紗子がいじわるな目でわたしを見た。
わたしは頬杖をついて、苦笑いした。
「ぜんぶフィクションだよ。具体的な願望を書いてるわけじゃない。でも、まあ、自分の心をさらけだしているっていうのはあるかもね」
「アダルトビデオに出て、お尻の穴まで見せてるのに、このうえ心の中まで見せちゃうなんて、どんだけ露出狂なのかと思うけど」
言われてみればそうだな。
AVだってお金のためだけにやってるわけじゃない。じゃあ、なんのためだと訊かれても答えられないけど。たぶん、小説を書いているのと同じ理由なんだと思う。
「萌え中心なんだろ? もっとストレートに美紗子の願望を出しちゃえば? 受けも攻めも女体化させて絡ませるとか」
美紗子はジト目でわたしを見ると、
「女体化はもうやらん。ていうか、それじゃガールズラブになっちまうだろ。百合は守備範囲外だ」
「いいじゃん、百合って。男性向けエロも描いてるんだから、かわいい女の子大好きなんじゃないのか?」
ちなみに、わたしは女の子大好きだ。
「雛子は女同士のセックスに抵抗ないの?」
「百合とリアルの同性愛をごっちゃにすんなよ。でも、わたしはバイだから、ビデオだけじゃなくてプライベートでも女の子とセックスすることあるよ。男とするほうが気持ちいいけど、女同士でするほうが優しい気持ちになれるんだよね」
「さらっと、キツイこと言うなぁ」
「何言ってんだ。高校二年のときに、美紗子がわたしにむりやりキスしたのが、女の子とのファーストキスだったんだぞ」
わたしが微笑むと、美紗子は真っ赤になって、
「ああああれは、お前らが飲ませた酒のせいだろーが!」
高校生のとき、仲のいい友だち同士で集まって、お酒を飲むことがよくあった。といっても、割と偏差値の高い学校の、まじめな文化系女子のグループだったから、大酒飲んで大騒ぎするなんてことはなかった。
たまたまチョコレートリキュールをたくさん手に入れたことがあって、みんなでチョコテル研究会を開いたことがある。いろんなカクテルを試しているうちに、酔っ払った美紗子に押し倒されてキスされたんだ。
バージンじゃなかったし、舌を入れられて、胸を揉まれて、自分でもその気になってしまったのを覚えている。
[ありがとね]
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