シャツワンピのボタンをはずされていくあいだ、声も出せなかった。ショートパンツを乱暴に脱がされ、パンツの中に手を入れられ、アソコをいじられた。オナニーの経験すらない真琴は怖くてたまらなかった。
ブラジャーをはずされて乳首を吸われた。ファーストキスもまだだったのに。
真琴の気持ちなど一顧だにしない先輩の愛撫は、気持ち悪いだけだった。
男子のアレを見たのは、そのときが初めてだった。ソレをアソコに押し付けられ、真琴はぎゅっと目を閉じた。
好きな人と結ばれるのだから、これでいいんだ。そう自分に言い聞かせた。
そのときだ。玄関の扉が開く音がした。先輩の母親が戻ってきたのだ。それは先輩にとっても予定外だったらしく、先輩は舌打ちして真琴から離れると、部屋を出て行った。
真琴は半裸のまま放心してベッドに横たわっていたが、先輩と先輩の母親が話している声で我に返った。
そして大急ぎで服を着ると、脇目もふらず外に出た。先輩が呼び止める声を背に、エレベーターに飛び乗った。ボタンを何度も押し、扉が閉まったあと、エレベーターの階数表示ランプが一階へと移っていくのをぼんやりとながめていた。そこで初めて、自分が泣いているのに気がついた。
翌日になって、真琴は取り乱してしまったことを後悔した。先輩だって悪気があったわけじゃないだろう。付き合っている彼女とえっちなことをしたいと思うのは、高校生の男子にとってはあたりまえのことだと思う。ただ、真琴のほうがまだそういう気持ちになっておらず、突然のことにうろたえてしまったのだ。
嫌われていなければいいが、と真琴は思った。先輩に会って謝罪し、できればもう少しゆっくり親密になっていきたいのだと伝えよう、と思った。
ところが、事態は思わぬ方向へと流れていった。偶然のことから、真琴は自分が二股をかけられていたことを知ってしまったのだ。
二股、というのはちょっと違うかもしれない。実際には先輩には中学時代から付き合っていた恋人がいて、いまもその子が本命だったのだ。おまけに先輩がその子以外の何人もの女の子と浮気しているという話を聞かされた。
自分は最初からセックスフレンドとしか思われていなかったのだ。いや、代わりがいくらでもいるセックスの道具のひとつとしか思われていなかったのだ。
そのことが、真琴を深く傷つけた。
もちろん先輩とは別れた。恋人だと思っていたのは真琴のほうだけだったのに、別れた、というのも変だが。バージンを奪われる前に気づいたのが不幸中の幸いだったと思えば、多少は気が楽になった。
いまとなっては、いったいあの男のどこにそんなに夢中になっていたのか、まったく思い出せない。
あれ以来、何人もの男子と付き合ったのだけれど、ある程度以上に親しくなることはなかった。真琴が怖気づいてしまうのが原因だ。この先、まともな恋愛をすることができるのだろうか、と思う。恋をしたい。自分は惚れっぽい性格だという自覚はある。なのに、男と付き合うのが怖いのだ。
それがどう誤解されたのか、何人もの男子を手玉にとる恋多き女と思われている。いまだにキスの経験もないのに。まあ、魔性の女と言われないだけマシだが。
真琴は折れたシャーペンを片付け、替わりのシャーペンを取り出した。
(操を助けたい)
真琴は操のほうに目をやった。確かにスカート丈が短すぎだが、プリーツの折り目はきっちりしていて、身だしなみには気を使っているのがわかる。ふしだらな女ではないのだ。
操は男子の視線など気にしていない。媚を売ることなどまったくない。まわりの女子に合わせるようなこともしない。自分がしたいようにしているだけだ。それでいて自分の生き方を通せるだけの強さも持っている。
それが真琴にはうらやましかった。
自分も操のように生きられたらいいのに。
じっと操を見つめていると、操がわずかにうしろを向き、真琴と目が合った。すぐに操は気まずそうに視線をそらした。
おそらく操は無理やり関係を強要されているのだ。
(操を助けなければ)
でも、それには証拠が必要だ。
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