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結婚したらやってみたかったこと。それは不倫。
だけど、いざとなると別の男性に身をまかせるのはこわくてたまらない。
あたしは唾をゴクリと飲み込むと、大きく深呼吸をした。
「よしっ」
意を決して寝室のドアを開け、中に入った。
寝室の窓は開け放ってあった。閑静な住宅街にあるアパートの二階なので、戸外からの騒音もなく静かだ。五月の午後の暖かい風がミディアムショートの髪を揺らす。
身につけているのはシースルーの白のベビードールにGストリングだけ。冷蔵庫から取り出してきたシュークリームの箱を後ろ手に持ったまま、あたしはもじもじと体をよじった。
「どうかな?」
「かわいいです。思ったとおり、奥さんにぴったりのランジェリーだ」
ベッドに腰掛けていた長髪の男性が言った。大学生でふたつ年下のレオくんだ。さっきレオくんからプレゼントされたベビードールに着替えているあいだ、自分も服を脱いで待ってたみたい。レオくんが身につけているのも、ビキニスタイルの黒のブリーフだけだった。レオくんは脱いでもかわいい。うわぁ、どうしよう。
「えへへ」
あたしは照れ笑いした。
透け透けのベビードールをとおして、あたしの裸体がはっきり見えちゃってる。ぷるんとして形のいいEカップのバストはあたしの自慢だった。それに、ぐっとくびれたウエスト、ぷりっとしたヒップ。スタイルにはけっこう自信がある。でも、フリルとレースをふんだんにあしらったかわいらしいベビードールは、清楚な可憐さを感じさせた。ちょっと少女っぽすぎないかな。
「やだ、そんなに見つめないでよ」
あたしはシュークリームの箱で顔を隠した。少しだけ顔を出してレオくんを見つめ返す。
結婚して二ヶ月もたっていない。それなのに夫以外の男性と寝室にふたりきりでいる。しかもレオくんが座っているのは、いつも夫の則夫(のりお)さんと愛し合っているベッドだ。
膝が震えるほどの緊張を覚えた。
はじめての冒険……。
あたしはベッドに駆け寄ると、レオくんの横に座り込んだ。
「レオくんと食べようと思って、シュークリーム買っておいたの。きょう新装開店のお店のなんだ。レオくんは甘党でしょ?」
ここまで来たらもう後には退けないのに、それでもその瞬間が来るのがこわい。まるで時間稼ぎをするように、あたしはシュークリームの箱を開けた。四個のジャンボサイズのシュークリームが顔を出した。
「ご主人は甘いものが苦手なの?」
「う、うん。あたしはスイーツ大好きなんだけど」
言葉が途切れた。うまく会話が続かない。
沈黙があたしを追い詰めていく。
レオくんと知り合ったのは一週間前のことだ。いまならまだ間に合う。間違いを犯さずにすむ。そう思いながら、あたしはこの一週間を振り返った。
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[新婚不倫]
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