「もなかさんたちの部屋にバイブレーターとかペニスバンドとかが置いてあるのを見ちゃったんですけど。あずきさんと使ってるんじゃないんですかぁ? お部屋にあったのはダブルベッドでしたし」
くぅ、恥ずかしい。「ペニス」なんて言葉を口にしたのは生まれて初めてだよ。
もなかさんは黙ったまま顔を真っ赤にしていた。
わたしはばつが悪くなって、
「あのう、ごめんなさい、もなかさん。失礼なことを言ってしまいました。わたしは同性愛には偏見は持っていないつもりです。むしろ、すこし興味があるくらいです」
そう言ってしまってから、また興味本位だと言われるのではないかと思って言葉を切った。もなかさんが悲しそうな表情を見せたので、
「申し訳ありません、もなかさん。立ち入ったことを聞いてしまって」
「いえ、いいんですよ。あずきはただの親友です。あずきのことは大好きですが、女同士で恋愛なんてありえません。あるはずないじゃないですか。あの大人のおもちゃはあずきが使っているのですよ。困ったものですわ」
あずきさんがどう思っているかはともかく、もなかさんはあずきさんに恋愛感情を持ってるんじゃないのかな。言葉で否定しても、顔に書いてあるよ。
どうやらもなかさんはセックスについてはすごく保守的な考え方をしているようだ。性的なことを忌避しているようにも思える。
それとも、女性であるあずきさんを好きになってしまったことを自分でも認めたくないのかな。あずきさんはどう思ってるんだろ。
「あずきさんは栄寿さんのことが好きなんでしょうか? 栄寿さんのことを、自分にとって生涯ただひとりの男性だ、って言っていたんですけど」
「わたくしたちにとって栄寿さまは恋愛の対象ではありませんわ。あの方にお仕えし、お救いすることが、わたくしとあずきに課せられた使命なのです」
「じゃあ、あずきさんは将来誰とも結婚しないつもりなんですか?」
わたしは複雑な思いだった。あずきさんもセックスに対して厳格な――それを古臭い考えだとは思わないし、間違ってるとも思わないけど――タイプで、結婚するまでは処女でいなくてはならないと考えているのかもしれない。
それなのに、栄寿さんとのセックスを要求されている。それも栄寿さんが大人の女性とセックスできるようになるための練習台としてだ。
こんなことを言い出したのは夏目おじさんなんだろうか。金持ちだからって、やっていいことと悪いことがある。
「あずきのことは本人に訊いてください。でも、わたくしはたぶん誰とも……」
もなかさんは言葉を切って唇を歪めた。ぎゅっとハンドルを握りしめている。
わたしはお腹の中がイライラするのを感じた。
こんなの間違ってるよ。
セックスは自由だと思う。同性愛だっていいし、純潔を守ったって構わない。でも、望まないセックスを強要されるなんて、断じて間違ってる。
だから、やっぱりわたしが頑張らなくちゃいけないんだ。
「わたしなら栄寿さんを治してあげられると思うんです。まだ十四歳ですから栄寿さんだってわたしとならセックスできるんです。このまま二十歳になるまで続けていけば、栄寿さんも大人の女性に慣れるんじゃないかしら。そうすれば、もなかさんもあずきさんも、栄寿さんとのセックスを無理強いされなくて済むじゃないですか」
「そのために莉子お嬢さまが犠牲になるなんて間違ってますわ」
もなかさんが腹立たしげに言った。「犠牲」という言葉を使ったのは、内心は栄寿さんとのセックスを望んでいないという気持ちがあるからだろう。だったら、それこそもなかさんたちを犠牲にはできない。
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