三ツ沢さんみたいに親友の数を自慢するような人は嫌いだ。親友と言ったって、どうせ表面的なものだろう。必死に空気を読んで合わせてるだけだ。心から信頼できる友達なんて一生のうちにひとりできれば上等じゃないかと思う。
それはそれとして、
「で、あの美少女ランキングっていったい何なの? 盗撮とかされてすごく迷惑してるんだけど。誰が管理人なのか知らない?」
「さあ。わたしもきのう友達からのメールで初めて知ったばかりだし」
「その友達は何か知らないかな?」
「じゃあ、訊いてみてあげるよ」
そう言うと、三ツ沢さんはうれしそうに顔をほころばせた。ケータイを取り出して、誰かに電話をかける。相手はすぐに出た。
「おはよ、茉莉だけど。きのうの美少女ランキングのサイトのことだけどさ。あれ、誰が管理人なのか知らない? ……そうそう、わたしの友達がランクインしててさ。……そーなのよ。……うん、……うん。じゃあ、お願いね」
三ツ沢さんは電話を切ると、
「その子もきのう知ったばかりだって。管理人が誰かは知らないって言ってたけど、友達をあたってみるって言ってた。何かわかったら連絡してくれるって」
「そう……」
親切にしてくれるのは、友達なんだと思わせたいからなんだろう。だけど、あたしはこの子と友達になりたいわけじゃない。あたしが友達になったら何か三ツ沢さんにとってメリットがあるんだろうか。
でも、たとえ表面的な関係だとしても、いまみたいに気軽に頼みごとができる仲間がたくさんいるのは、すこしだけうらやましいと思った。
下駄箱のところまで来たとき、三ツ沢さんのケータイが鳴った。さっき電話した相手からだった。三ツ沢さんは二言三言話したあと、電話を切った。
「管理人はわからなかった。三日前に『美少女ランキング投票開始』っていう書き込みが別の裏サイトの掲示板にあったそうだよ。そっちのサイトのアドレスとか、いる?」
「教えて」
「じゃあ、メアド交換しようよ。メールするから」
あたしのケータイのアドレス帳に登録してある学校の友達は三人だけ。ひとりは拓ちゃんで、ほかは一年生の女子だ。援助交際では十数種類のメアドを使っているけど、日常生活で使っているケータイのアドレスはあまり人には教えてなかった。結局、そのメアドと引き換えに、掲示板のアドレスとパスワードを教えてもらった。
教室に入ると、三ツ沢さんがアリスの衣装を見せろと言い出した。あたしは手提げ袋を渡した。すぐにクラスの女子が集まってきた。水色のエプロンドレスを広げて、口々に賞賛の声を漏らしはじめた。普段は目立たないようにしてるのに、急にクラス中の注目を浴びてしまってどぎまぎした。
そのうちにファッションショーをやろうということになった。ホームルームが始まるまでまだ時間がある。アリス役の子は全員登校してきていた。男子が教室の外に追い出され、あたしを含む四人の女子は制服のブレザーを脱いで着替え始めた。
全員が着替え終わると、男子が入室を許された。アリス役はもちろん可愛い子が選ばれている。男の子たちは四人のアリスを見て感嘆の声をあげた。
四着のドレスはそれぞれデザインを変えてある。あたしのはスカート丈が四十センチ、襟が独立していて、胸から肩にかけての肌の露出が多い。本番ではパニエでスカートをふくらませ、リボンカチューシャとしましまニーソを身に着けることになってる。
あくまで清楚な色っぽさが男子の目を惹いていた。自分でこれを着たいと言ったわけじゃないけど、イヤじゃなかった。注目されてちやほやされるのは、やっぱり気分がいい。この役割を引き受けてよかったと思った。
だけど、またしてもあの言葉を聞かされることになった。
「美星カワイイー。これ見たら美少女ランキングでランクアップ間違いなしだ」
「そうだな、岡野先輩を抜けるかも」
何人かの男子がそんなことを言い出した。
女子は女子で、
「文化祭は鳴海先輩も来店してくれるよね? 彼氏にも見てもらうんでしょ?」
「ねえねえ、どうやって鳴海先輩をモノにしたのよ」
などとはしゃぎだす。
否定しようとするあたしの言葉を聞こうともしない。このままじゃ拓ちゃんに迷惑がかかる。はっきり言わなくちゃいけない。それで、意を決しておおきな声を出した。
「あの! 聞いてよ!」
みんなが突然あたしに注目したのでひるんだけど、勇気を出してつづけた。
「鳴海先輩は彼氏じゃない。あたしは鳴海先輩とはいとこ同士なんだ。だから、そーゆー関係じゃない。そんなふうに噂されると鳴海先輩にも迷惑かかるからやめてほしい」
一瞬の間をおいて、誰かが言った。
「でも、いとこなら結婚できるじゃん」
[援交ダイアリー]
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