「その……、メイドさんのお仕事って、どういう……?」
あずきさんが奥からシフォンケーキを持ってきて、こたつテーブルに置きながら、
「お食事の用意、掃除に洗濯、運転手、それに夜のお相手」
「よよよよ夜のおあおあお相手ッ!?」
って、何を慌てているんだ、わたし。栄寿さんを初体験の相手に考えているのに。
わたしは女性経験の豊富な人に優しく教えてほしい。
栄寿さんだったら問題ない。問題はふたりの美人メイドがライバルとして立ちはだかっていることだ。
「夜のお相手って、その、エッチなこと……ていう意味ですよね」
「そうよ。むしろ、それがメインの仕事と言えるな。あたしともなかは、栄寿さん専属の娼婦として夏目家に雇われているんだから。家事をするのは本職の家政婦さんの予定だったんだけど、邪魔が入らないほうがいいから、あたしたちで炊事洗濯もすることにしたんだ」
娼婦だってェ!?
あずきさんはハッとして、シフォンケーキを切り分ける手を止めた。
「高校生だったら、こういう話題も平気よね?」
「だ、大丈夫です。でも、どうして娼婦を雇う必要があるんですか? 栄寿さんはすごく女性にモテると思ってたんですけど」
「そのとおり。あたしともなかは大学でも栄寿さんの助手をしてるんだ。栄寿さんって女子学生に人気あるのよ。かわいいしお金持ちだから、言い寄ってくる女も多いしね。だけど、栄寿さんは女性の好みがうるさいんだよ。とぉってもね」
「おふたりのどちらかが栄寿さんの恋人じゃないんですか? 娼婦だなんて、わたしをからかっているのでしょう?」
あずきさんは残念そうにため息をついた。
「まあ、ちょっと説明しづらい話なんだ。恋人かって言うなら、違うとしか言えないな。あたしともなかが娼婦として雇われているのは本当のことだよ。でも、あたしたちにとって、栄寿さんは生涯ただひとりの男性だろうし」
あずきさんは冷蔵庫から出してきたホイップクリームをスプーンですくって、お皿に取り分けたシフォンケーキにたっぷりとかけた。
話がよく見えないんだけど。
栄寿さんは女性にモテモテだけど、好みがうるさくて、もなかさんとあずきさんは娼婦だけど、セックスする相手は栄寿さんだけ? それって要するに、男ひとりに女ふたりの恋人関係ってことじゃないのか?
世間的には普通じゃないけど、ママの実家の神楽坂(かぐらざか)家に比べたらどうということはない。夏目おじさんの家はセックスについては割と保守的だったから、栄寿さんにとっては問題なのかもしれない。それでぼかした言い方をしているのか。
栄寿さんはふたりのメイドさんのことをどう思ってるんだろう。
もなかさんとあずきさんは栄寿さんの恋人ではない――恋人になりたいのかもしれないけど――、ということでいいのかな。
だったら、わたしにもチャンスがある。このメイドさんたちよりもわたしのほうが魅力的な女だと思ってもらえれば……。
そう思って、わたしはあずきさんと自分の姿を見比べた。
(ダメだ。勝ち目なんてないよ。やっぱり大人っぽい服でくればよかったなァ)
ちょうどそこへ、もなかさんと栄寿さんがやってきた。
「やあ、莉子ちゃん、いらっしゃい」
栄寿さんが笑顔で言った。わたしは立ち上がって、
「こんにちは、栄寿さん。お久しぶりです」
兄の夏目おじさんと違って、栄寿さんは小柄で童顔の男の人だ。笑うと男の子のような表情を見せる。
ところが、わたしの姿を見ると栄寿さんの笑顔が凍りついた。そのまま引きつった笑いを漏らした。フリフリの服装って、そんなに変なのかな……。
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