人妻セーラー服(03)
くるみは腹を立てて、ベッドの上で勢いよく起き上がった。
「渡辺先輩なんて、もう、とーぉっくの昔に終わった話だよ。青春時代のホロ苦い一ページでしかない。いまのあたしは亮さんとラブラブ夫婦なんだから」
渡辺先輩に捨てられたあと、何人かの男性に告白されて付き合ったけれど、長続きはしなかった。そして亮さんと出会ったのだ。苗字が高瀬に変わったのがうれしくてたまらなかった。いまのくるみは幸せいっぱいだ。
だから腹が立ったのだ。亮さんの奥さんになれて幸せを満喫してるのに、ちょっと昔の男のことを思い出したくらいで胸が苦しくなってしまう自分を、くるみは叱り飛ばしてやりたい気持ちだった。
くるみはレースのカーテンを勢いよく開け、窓を開けてバルコニーに出た。洗濯物を避けて手すりにつかまると身を乗り出した。下を通る幹線道路から届く都会の喧騒につつまれた。優しい日常の騒がしさ。近くに高い建物はなく、マンションの八階からは開けた空が見渡せた。春の空は白くかすんでいて、居眠りしている牛の群れみたいな雲が、ぼんやりと浮かんでいる。
「亮さん、早く帰ってきてよ」
ちょっと外の空気を吸ったくらいじゃ、やっぱり元気が出ない。
ためいきが漏れた。
うつむいて視線を落とすと、歩道を歩く制服姿の少女が目に入った。学校帰りだろうか。まだ三時前だからサボりかもしれない。
(高校生のときに亮さんと出会ってたらよかったな)
だんだん気が滅入っていくのを感じたくるみは、体を起こして首を左右にぶんぶん振った。そして、両手でほっぺたをパンッと叩いた。気合を入れたつもりだったけれど、手のひらを見ると真っ黒だった。さっき手すりにつかまったときにススが付いたのだ。都会のバルコニーは車の排ガスですぐに手すりや物干し竿が汚れる。きっと顔も黒くなっちゃってる。くるみは自嘲した。顔を洗わなきゃ。いっそシャワーを浴びようか。
(そして、お買い物に出かけよう。家に閉じこもってるから気持ちが暗くなるんだ。気分転換しなきゃ)
よしっ、と思ってふたたび眼下の街に目をやったくるみは、さきほどの制服少女に目を留めた。そして、ただ買い物に出かけるよりももっと刺激的でワクワクすることを思いついた。バカバカしい思いつきだ。でも、いったんそのアイデアが脳裏に浮かんでしまうと、もう頭にこびりついて離れなくなってしまった。
その誘惑には抗いがたい魅力があった。
くるみは室内に戻ると、セーラー服を脱ぎ捨て、下着も脱いでしまうと、まずシャワーを浴びた。
新しい下着はどれにしよう。高校生のときはピンクの可愛いブラとパンツを愛用していたものだけれど。いまは色気のない無地のデザインのものしか持ってない。まあ、下着は見えないのだから持っているもので我慢しよう。
キャミソールも同じく。セーラー服でキャミなしというわけにもいかないし。
ミニスカートに素足というのも不安だ。素肌感のある、穿いていないように見えるストッキングをおろして穿いた。その上に学校指定の白ソックスを重ね履き。
そして明るい紺のプリーツスカートを穿く。膝上20センチくらいのミニ。もともとのスカート丈がこうなっていて、ウエストを折り曲げてあるわけじゃない。このあたりの女子高生なら普通だ。
セーラー服の上着は前がファスナーで開く。襟と胸当てとカフスはスカートと同じ色に白の三本線。ファスナーを上げて、胸当てのスナップボタンをはめた。
最後にパステルブルーのスカーフを結ぶ。スカーフは胸元のタイ留めに通すだけだけど、きれいな形に結ぶのはけっこう難しい。高校時代は毎朝、タイの形を調節するのに苦労したものだ。
次はメイク。リキッドファンデを薄く塗って、アイブロウとアイシャドウも控えめな色にする。高校生に見えるナチュラルメイクを目指すのだ。でも、目の印象は大事だから、まつ毛はビューラーで思いっきりあげて、マスカラで伸ばす。リップはぷるんとして血色がよく見えるように。さらさら前髪はおでこに垂らす。
くるみの高校では学校メイクは黙認されていたけれど、見てわかるような濃い目のお化粧はNGだった。高校生がバレないメイクを頑張りました風のすっぴんメイクを主婦がするのは苦労した。
くるみは姿見の前に立って、全身をチェックした。
セーラー服を着た女子高生がそこに立っていた。
「カンペキだ。どこからどうみても女子高校生だよ。あたしってば、めちゃくちゃカワイイじゃん」
いろいろポーズをとって悦に入るくるみ。
鏡の中の自分の姿にうっとりしていたけれど、もしもくるみが女子校生モノのアダルトビデオを見たことがあれば、もうすこし別の感想をいだいたことだろう。たしかに美少女然として可愛らしく見えたものの、なんといっても二十五歳の主婦だもの。
「準備OK! さあ、JK放課後トリップに出かけよう!!」
[人妻セーラー服]
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