「あ、あっ、あうっ」
あたしが仰け反ると、邪魔にならないようにと則夫さんが枕をずらした。あたしはさらに大きく背中を反らせ、後頭部で支えるようにして体を浮かせた。
「あううぅぅっ、あう、あうっ、はぁう!」
あたしは自ら腰を振って昇りつめようとする。
ところが、オルガスムスに達する直前、不意に則夫さんが動きを止めた。宙に浮いていたあたしの体がベッドに落ちた。離陸を中止した飛行機のエンジンが止まるように、快感の波が急速にしぼんでいく。
則夫さんが抱き合ったまま、おでこをくっつけてきた。
「やっぱり変だな。何があったの?」
「な、なんにもないよ。いつもどおりだってば」
隠れているレオくんのことが頭をよぎった。あたしはかすかな恐怖を感じた。何か気づかれたんだろうか。
「セクシーなランジェリーを着てエッチをねだるなんて、いままでなかった。ベッドだって乱れてるし。それに……、奈緒美のアソコ、いつもと違う」
「そんなこと……」
口の中がからからで喉がひりひりした。心臓が早鐘のように鳴った。抱き合ってるから、心臓の高鳴りが直接伝わってしまう。どうしよう。
「もしかして……、バイブとか使ってたの?」
「え……?」
オナニーは小学生のころからしていて、いつかバイブレーターを使ってみたいと思っていた。でも、実物を見たことさえない。バイブを使っていたのかという則夫さんの言葉の意味が飲み込めなかった。
「バイブなんて……、使ってない……よ?」
則夫さんが、すーっとあたしの中から出ていく。あたしのアソコが則夫さんを繋ぎとめようとしたけど、ひっかかるところさえなく、すり抜けてしまう。
あたしは一瞬、バイブレーターを使ってオナニーしていたのだと言ったら、則夫さんは戻ってきてくれるのだろうか、と考えた。則夫さんがそんなことを信じるはずがないとわかっているけど。
「子供のころ、俺の母親、つまり俺を産んだ女のことだが、親父のいないあいだに、よく別の男と一緒にいた」
則夫さんがあたしの髪を撫でながら言った。落ち着いたゆっくりした口調で、表情からは何を考えているのか読み取れない。
「親父は仕事で家を留守にすることが多かったんだが、その間に別の男が家に来ることが多かった。俺は寝たふりをしていたし、実際のところ何が起きているのか、その頃はわからなかった」
気づかれたんだと、あたしは悟った。
火照っていた体から急速に熱が失われていくのを感じた。
「ある夜、親父が母親を殴っているのを見た。俺は親父を止めようとしたけど、逆に突き飛ばされた。母親が出て行ったのは親父の家庭内暴力が原因だと、その後しばらく俺は思い込んでいた。悪いのは親父なんだと。事情がわかったのは小学校の高学年になってからだ。あの夜、母親を殴っていた親父がなんで泣いていたのか。親父のほうが何倍も傷ついていたんだってことが」
あたしは顔から血の気が引くのを感じながら、何も言えなかった。どうして不倫がバレたのか、それはこの際どうでもいい。則夫さんの目に浮かぶ悲しげな表情が痛い。夫がひどく傷ついているのを感じて、それが苦しかった。
「俺はいままで君以外の女と付き合ったことはない。君以外の女とセックスしたことはない」
「則夫さん……」
声がかすれた。
「君以外の女を信じたことはない」
則夫さんが肩を震わせながら、絞りだすように言った。いまにも泣き出しそうなのを必死にこらえているように見えた。
則夫さんが体を起こした。何か黒いものを手にしている。レオくんの脱いだブリーフだった。ビキニスタイルとはいえ、男物であることは股間の布の形から明白だ。
「どういう……ことなんだ?」
[新婚不倫]
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