第4話 脅迫者の素顔 (05)

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『あなたは勘違いをしています。鳴海先輩はあたしの恋人じゃありません。いとこです。写真をどこで手に入れたのか教えてください』

あたしが拓ちゃんの彼女じゃないとわかってもらえたら、写真の公開を思いとどまってくれるだろうか。犯人が女子生徒だとしたら望みは薄い。恋のライバルが援交してると知ったら、どんな手を使ってでも破滅に追い込もうとするにちがいない。男より厄介だ。

でも、あたしが拓ちゃんに真実を打ち明けたかどうか、犯人にはわからないはずだ。どうやって確かめるつもりなんだろう。

その答えはメールでやってきた。

『しらを切っても無駄です。美星さんが鳴海君の恋人だということは全校生徒が知っています。校内美少女ランキング見ました。美少女だともてはやされていい気になっていられるのも、いまのうちだけです。せいぜい楽しんでください。明日の正午を過ぎても鳴海君があなたに愛想を尽かしていなければ、写真を公開します。では、明日の正午にまたメールします。それまで自分の悪行を反省してください』

いらだたしい気持ちを必死に抑えて、返信を書いた。あの美少女ランキングサイトさえ作られなかったら――。そう思うと胃の中が熱くなるほど腹が立った。

『お願いです。鳴海先輩とは本当に何でもないんです。誤解なんです。直接会って話をさせてください。どこであの写真を入手したのか教えてください』

送信してしばらくトイレの中で待っていたけど、返事はなかった。

犯人の言葉どおりなら、とりあえず明日の正午までは写真をばらまかれる心配はない。でも、あしたの正午をすぎても拓ちゃんがあたしを嫌いになっていなければ写真を公開される。

タイムリミットまでに犯人を突き止められる可能性はほとんどない。拓ちゃんのことを好きな女子なんていくらでもいるはずだ。美少女ランキングのときのように、犯人をプロファイリングするというのはどうだろう。文章の中に何か手がかりがないだろうか。

(ダメだ。思いつかない)

犯人の正体以上に気になるのが写真の出所だ。どの写真も身に覚えがない。信じたくないけど、解離性同一性障害という単語が頭から離れない。そう考えれば説明がつくし、あたしは重症の精神病を患っていたとしてもおかしくない。

ひとしきり泣いたあと、あたしは四枚の写真と封筒にマッチで火をつけた。火災報知機が鳴らないよう注意しながら燃やし、灰をトイレに流した。

個室を出て、顔を洗った。鏡に映った自分の顔を見た。青ざめてこわばった顔だ。

あたしがあたしであるために、どうしても犯人を見つけなくちゃいけない。

トイレを出て、これからどうしようかと迷っていると、不意に声をかけられた。振り向くと写真部の赤坂さんだった。

「美星さん、その衣装、ものすっごくカワイイよ。不思議の国のアリスだね。すぐそこの理科室で写真部の展示をやってるんだ。来場者のスタジオ撮影サービスがあるんだけど、試していかない? 美星さんだったら料金はいらないよ」

「いえ、あたしは……」

と、口ごもるあたしに赤坂さんは愛嬌のある笑顔を見せて、

「晴嵐高校でもトップクラスの美少女のきみをぜひ撮らせてほしいんだ。あ、そういえば例の校内美少女ランキングって、やっぱりコンピ部の吉田がやってたんだってね」

「ちょっと違います。吉田さん以外のコンピューター部の人がやってたんですよ」

「ふうん、そうか。吉田もまたリアルの女子に興味出たのかと思ったんだけどな」

「三次元女は出て行け、って怒られましたよ」

赤坂さんはクックッと笑った。

「中学のときは学校にアニメの美少女フィギュアを持ってくるようなヤツだったからね。でも、その頃はクラスの女の子を好きになったこともあったんだよ」

「その子にフラれたトラウマで、現実の女の子を受け付けなくなったんですか?」

「あいつに告白する度胸はなかったよ。そのうちに相手の子がほかの男を好きになってさ。それからその子の悪口を言うようになってね。酸っぱいブドウってやつさ。それでクラスでハブられてさ。好きだった女の子はほかの男に取られちゃうし、だったら現実の女子なんて相手にする必要ないって言いだしてね」

好きになった相手がほかの人を好きになったとき、男子はそういう方向へ行くのだろうか。こういうとき女子は相手の女を攻撃するものだ。いまあたしを脅迫してる子も「三次元の男なんて必要ない」って思ってくれればよかったのに。

赤坂さんが熱心に誘うので、結局あたしは写真部の簡易スタジオで写真撮影をしてもらうことにした。スクリーンの前に立って照明をあてられ、ポーズをとる。展示を見にきていたほかの生徒たちの注目を浴びてしまった。

撮影のあいだカメラマンなら誰でもするんだろうけど、赤坂さんがあたしのことを褒めちぎる。照れるけど、いやじゃない。美少女だとちやほやされるのは気持ちがいい。

これもきょう限りのことかもしれない。明日になったら、あたしは売春婦の烙印を押されて退学になるかもしれないんだ。

だけど、ちょっと元気が出た。赤坂さんがあたしを誘ってくれてよかった。

写真部の人があたしの写真を十枚ほど印刷してくれた。写真用の専用紙だ。脅迫状に入ってたような再生紙じゃない。なんだかアイドルになったような気分になった。

あたしは赤坂さんと写真部の部員さんたちにお礼を言って、自分の教室へと向かった。

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