第13話 目覚めた少女たち (02)
あたしは大きなため息をついてソファに沈み込んだ。
(うまくいかないなぁ。いい人だと思ったんだけど、まさか高校生とはセックスできないだなんて)
青山さんが立ち去ったあと、ラウンジでコーヒーを飲みながら思い悩んだ。青山さんに渡した名刺には『沙希』という名前とメアドだけが記載されている。リピーターになってくれる人には別のメアドを記載した名刺を渡すんだけど、こっちはお試しの人に渡す用の名刺だ。最近はこの名刺も渡す機会がぜんぜんない。
バッグからメインの援交用スマホを取り出して電源オン。
美菜子ちゃんからメールが届いていた。
『午後から一条さんの部屋に行きます。沙希ちゃんもいっしょにどおかな。一条さんが会いたがっていましたよ』
うーん。さっき一条さんにジェラシーメールを送っちゃったからなぁ。
と思っていると、一条さんからもメールが来た。
『午後からミーナちゃんが来てくれることになった。沙希ちゃんにも来てほしい。きみに話したいことがある』
話したいこと? 美菜子ちゃんと付き合うことになったからお前はお払い箱、とか?
(いやいや、なに考えてんだ、あたし。美菜子ちゃんに嫉妬してるなんて)
もしも美菜子ちゃんが一条さんの恋人になるなら、あたしはもちろん身を引くし、それで美菜子ちゃんが足を洗うなら祝福してあげる。でも、美菜子ちゃんはおととい正式に援交デビューしたばかりだから、身請けされるつもりなんてないだろう。
あたしは美菜子ちゃんと一条さんにOKの返事を返した。
軽いランチを済ませてから、クローゼット兼ドレッシングルームとして使っているトランクルームへ行って着替えた。白のレースブラウスにフリルのついたベージュのミニスカート、カーキのミリタリージャケットを羽織った。駅で美菜子ちゃんと待ち合わせるから、あまりガーリーすぎないようにしておく。
待ち合わせ場所に行くと、もう美菜子ちゃんは来ていた。あたしに気づいて手を振ってる。あたしも手を振ろうとしたのだけれど、その手が止まってしまった。
「美菜子ちゃん! 髪切ったの!?」
長かった髪がワンサイドショートボブになっていた。
「はい。本格的に援助交際をすることになったので、気持ちを切り替えようと思って。新しい自分になったのですからね。事務所にも許可を取ってあります。援交少女には似合わないでしょうか」
「すごくカッコいい。美菜子ちゃんに似合ってるよ。いままでとぜんぜん違う美菜子ちゃんの魅力をビンビン感じる」
美菜子ちゃんはうれしそうに笑った。
正直に言うと、援交少女には似合わない。あまりにもカッコよすぎる。たとえばあたしなんかは、がんばってもメンヘラっぽくなっちゃうし、レイプされた子の雰囲気はなかなか消せない。あたしには援交少女らしさがある。
美菜子ちゃんは白のシフォンブラウスに黒のショートパンツ。シンプルだけどオシャレ。モデルをしてるだけあって、すごく大人っぽい。こんな美人さんがまさか援助交際をしてるなんて、と誰だって思う。
健康的で援交なんて縁のなさそうな感じ。一条さんも遊ぶならこうゆう女の子の方がいいのかな。美人でスタイルもいいし。
あたしたちは歩いて一条さんのマンションに向かった。駅のすぐ近くにあるタワーマンションの三十三階。
一条さんの部屋の呼び鈴を鳴らすと、シルクシャツ姿の一条さんがドアを開けた。
思わず美菜子ちゃんのうしろに隠れてしまった。美菜子ちゃんにヤキモチ焼いてたのが知られちゃうんじゃないかと思うと恥ずかしい。
「やあ、ミーナちゃん。沙希ちゃんも、やっと来てくれたね。ありがとう」
あたしが口を尖らせると一条さんは困ったような微笑みを浮かべた。
「呼んでくださってありがとうございます。わたしと沙希ちゃんはお隣の部屋でシャワーを浴びさせていただきますから、三十分後にお越しください。いまから二十四時間、ゴム有り、回数フリー、ひとり百五十。料金は全額前払いでお願いします。たっぷりサービスしますから、女子高生との甘いセックスを堪能してくださいね」
と、美菜子ちゃんが笑顔で言った。
「わかった。じゃあ、あとでね」
一条さんも笑顔で答えて、ドアを閉じた。
美菜子ちゃんは紅潮した顔をあたしに向けた。
「沙希ちゃん、いまのどうでしたか!? わたし、沙希ちゃんみたいにカッコよく言えてたでしょうか」
「あたしよりうまく言えてたよ。でも、ひとり百五十万か。美菜子ちゃんも大したものだね。3Pだから色を付けてくれたのかな」
「沙希ちゃんがなかなか会ってくれないって一条さんがなげいてましたから、人気のある子はお金を積まないと会えないですよ、って言ったんです」
[援交ダイアリー]
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