第12話 エンジェルフォール (03)

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 翌日――。

 美菜子ちゃんが一条さんに抱かれているだろう頃、あたしは初めての男の人と会っていた。

 二十八歳、そこそこ顔はいい。年の割に大学生みたいなファッションで、話は面白いのだけどチャラい感じの人だ。大川先輩との一件で中村さんって人と会ったけど、あの人が大人になったらたぶんこんな感じだろうと思える。中村さんはちょっと魅力的な面もあったので、いつもならこの手の男は避けるのだけど、会ってみることにしたのだ。

 SNSはオススメしないと美菜子ちゃんには言ったものの、この人とはSNSで知り合った。お気に入りだった掲示板が使えない以上、あたしとしても別のルートに頼るしかない。

 というわけで、喫茶店に入って値段交渉だ。

 男性は石田と名乗った。公務員だという。

「いやぁー、沙希ちゃんってホント、カワイイよ。写真で見るより圧倒的に実物の方がいいネ。もう俺、ドストライク。学校でもモテモテなんじゃない? 彼氏いないってホントかなぁ。こんなにカワイイのに?」

 よくしゃべる人だな。

「あたし、引っ込み思案なので……。いまもすごく緊張してて……」

 と、自信のなさそうな顔で答えた。

 今回はバージンの高校一年生という設定だ。高校に入学したけど、クラスに馴染めずにいる女の子。

 石田さんはSNS上で相談に乗ってくれるという形でアプローチしてきた。学校の友だちはみんな援交してる、自分だけ話の輪に入れない、そんな話をした。すると一度会って話さないかと誘われた。それでこうして会っているわけだ。まだ処女を捨てる決心がつかない、と思わせてる。

「初めて会う年上の男を前にしたら緊張するのが当たり前だって。俺だって沙希ちゃんみたいな美少女を前にして、心臓バックバクだよォ。それにさ、沙希ちゃんみたいに奥ゆかしい子って、いいと思うんだよね。最近の若い子ってチャラチャラしてる子が多いじゃない。でも、男ってホントは沙希ちゃんみたいな内面のしっかりしてる子の方が、いっしょにいて楽しいんだ」

 さりげなくテーブルの上であたしの手に触れた。

「あたし、そんなふうに言われたの初めてです。えへへ。石田さんってやさしいですね。もっと自分に自信を持てたらいいんですけど」

「そんなのカンタンさぁ。もうね、ぜんぶ俺にまかせてよ。こう見えて俺、女子に自信を授けるの大得意。むしろ世の中の女子は俺を踏み台にしてのし上がってく感じ? もう、俺にもその自信を分けてよって思うくらい。あ、疑ってる? もー信じてよ、俺のこの澄んだ目を。大丈夫、沙希ちゃんは美人だから」

 ほんとによくしゃべる人だ。

「あたしなんて……。友だちの方がずっと美人だし、援交でもお金をたくさんもらっていて、ブランド品とか持ってて……。だから、あたし、ひとりだけ置き去りにされてるみたいで不安で……。なんとか友だちを見返したいっていうか……」

「わかるよー、女の子同士ってそうだよねー。まかせて、俺が沙希ちゃんの力になるから。沙希ちゃんはすっごい美少女だし、俺の紹介ならブランド品なんて服でもバッグでもいくらでも買えちゃうから。友だちを見返してやるなんてすぐだよ」

 この人、いま微妙なことを言ったな。俺の紹介なら、だって?

「だけど、バージンは一回だけなので、安売りはできません」

「五十万でどうかな」

 ご……!?

 こいつ料金を払わないつもりだな。援交のお金は全額前払いと決まってるんだぜ。

 と思ったら、バッグから札束の入った封筒を取り出して見せられた。たまたま競馬で大当たりしたのだという。若い人だから取れるのは十万円くらいがせいぜいだろうと思っていたのだ。チャラ男だと思ってバカにしていたけど、気前よく五十万円をポンッと出されたら吊り上げ交渉の余地はない。

 お金をもらってホテルに連れて行かれた。割と高そうなビジネスホテル。チェックイン手続きをせずにエレベーターに案内された。すでに部屋を取ってあるってことだ。

 ビクついてるフリをしながら部屋に入る。広々したツインの部屋だった。

「そんなに固くならないで。俺がリードするから」

 さっきまでとは打って変わってやさしい口調。急にまともな大人っぽくなった。

 石田さんは冷蔵庫を開けて、シャンパンの瓶を取り出した。

「まず乾杯しよう。緊張がほぐれるよ。大人の階段をのぼるなら、お酒も経験しなきゃ。友だちは絶対経験済だよ」

 石田さんがシャンパンをふたつのグラスに注いだ。ひとつを差し出される。

 あたしは感極まった感じで石田さんに抱きついた。石田さんはグラスを置いてあたしを抱きとめた。

「は、初めてなので……、よ、よろしくお願いします」

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