部室棟の中は文化祭の準備をする文化部員たちがおおぜいいた。廊下で立て看板やらハリボテやらを作っている生徒に、プリンター用紙の包みや何かのパネルを運んでいる生徒など。文化祭にのぞむ熱気を感じた。
三階にあがると、ちょうど写真部の部室からふたりの女子生徒が出てくるところだった。ランキング一位の小川さんと二位の真木瑠璃先輩だ。ふたりはすぐにあたしたちに気づいた。
「マキルリ、写真部に用だったのか?」
岡野会長が声をかけると、真木瑠璃先輩はちいさく肩をすくめた。
「まあね。あたしと美菜っちの写真パネルの仕上がりを確認しにきたのさ。モデルをやったんでね。あんたたちも写真部に頼まれてモデル撮影したの?」
「いや。わたしたちはあんたと違って別に仕事でモデルをやっているわけでもないしな」
「そっちの子は一年の美星さんだね。校内ランキング六位だけあって、やっぱりカワイイね。岡野と並んでるとまるで姉妹だな。髪型が同じで顔立ちも似てるから。美少女姉妹として売りだしたらどう? よかったら事務所に紹介するよ」
「バカ言うな」
岡野会長と真木瑠璃先輩のやりとりのかげで、小川さんがあたしを見てにっこり微笑んだ。やさしくてお嬢さまっぽい笑顔だ。あたしはぎこちない笑みを返した。
「ところで、マキルリも美少女ランキングのことを知っているのか? わたしたちはその管理人を探しているのだが、何か知らないか?」
「おっと、生徒会に目をつけられたか。まあ、何人もの女子が盗撮されてるのは見過ごせないよな。あたしなんかはネットで中傷されることもあるし、有名税だと割り切ってるけどね。で、管理人が誰かって? あいにく知らない。どうせもてないキモオタ男子だろ。まあ、生徒会長として頑張れよ。何かわかったら教えるよ」
真木瑠璃先輩は手を振って階段を降りていった。小川さんは去り際に「じゃあね、美星さん」とあたしにささやいた。あこがれの美少女モデルがあたしのことを知っているのが、なんだかうれし恥ずかしい。
それはともかく、
「六位だって?」
ケータイで確認すると、あたしは八位から六位にランクアップしていた。それだけじゃない。
「会長、この写真……」
「ああ。どうやら管理人はすぐ近くにいるようだな」
あたしと岡野会長、真木瑠璃先輩と小川さんの四人が並んでいる写真がアップされていたのだ。たったいま盗撮されたものだ。
背後を振り返った。何人もの生徒が廊下を行き来していた。誰だか知らないけど、犯人はこのフロアにいる。
あたしたちは写真部の部室の戸を開けた。ふつうの教室の半分ほどの広さの部室には、五人の男子生徒がいた。ひとつ確かなのは、いまこの部室内にいる人は犯人ではないということだ。
おおきな液晶ディスプレイの前でパソコンの操作をしていた太った男子生徒が顔を上げた。ブレザーを脱いでネクタイを緩め、腕まくりをしている。あたしたちを見ると、愛嬌のある顔でにっこり笑い、立ち上がった。
「写真部に所属していてよかったと思うのは、モデル撮影を口実にして美少女と知り合えることだね。ようこそ、岡野さんに美星さん」
「おじゃまします、赤坂先輩。でも、写真を撮ってもらいにきたわけではないんです」
「ありゃりゃ、残念。でも、きみたちをぜひ撮りたいな。特に美星さん、こんどヌード撮らせてくれない?」
赤坂先輩と呼ばれた三年生が顔を近づけてきた。どうしてこの人もあたしのことを知っているんだ? しかも初対面なのにヌードだなんて。
あたしは恐怖を覚えて岡野会長のかげに隠れ、
「サイテー」
と、思わず小声で漏らしてしまった。
赤坂さんは軽い冗談のつもりだったんだろうけど、あたしが怯えているのを見て、申し訳なさそうに苦笑いした。
「セクハラはやめてください、先輩。マキルリみたいな子ばかりじゃないんですよ」
「そ、そうだね。ごめんね、美星さん。で、きょうは生徒会の抜き打ち査察かい?」
「赤坂先輩は校内美少女ランキングという裏サイトをご存知ですか? わたしたちはその管理人を探しているんです。サイトにアップされている写真の何枚かがこの部室棟から撮られているようなのですが、何か心当たりはありませんか?」
赤坂さんは何か思いついたように机の上に置いてあったタブレットを持ち上げ、指先で画面を操作し始めた。しばらく操作をつづけたあと、画面をあたしたちの方に向けた。
「この写真のこと?」
登校してきた岡野会長を望遠レンズで隠し撮りした写真だった。それから窓際に歩いて行き、画面と窓の外を見比べた。
[援交ダイアリー]
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