第3話 校内美少女ランキング (05)
あたしはケータイを取り出し、拓ちゃんに教えてもらったサイトにアクセスした。パスワードを入力。ランキングのページを表示させ、ケータイを会長に手渡した。
「数日前からこんなサイトが作られていて、生徒のあいだで話題になってるんです。あたしも会長もそこに載ってます」
会長はあたしのケータイに視線を落とし、ボタンを操作しはじめた。その表情がみるみる怒りに染まっていくのがわかった。たぶん会長の専用ページを開いたんだろう。そこには会長の情報として、こんなことが書かれているのだ。
属性:ナイチチ、生徒会長、ツンデレ
ブラのサイズ:AA(貧乳はステータスだ)
実際のところ、胸の大きい子が好きな男性ばかりではない。小さい胸が好きだとはっきり言う人も多い。でも、女子は自分の胸の大きさが気になるものだ。
会長はまたボタンを操作して別のページに目を止めた。
「きみが鳴海の彼女だと、ここに書いてあるぞ」
「ですから、それはデタラメです。管理人を見つけてやめさせたいんです」
会長はまだ納得できないのか、疑り深げにあたしをにらんだ。
「ふむ、まあいい。たしかにこのサイトは放ってはおけないな。こんなデタラメなことばかり書かれてはかなわん。なんとしてもやめさせなくては」
落ち着いた口調だけど、目が本気だ。よほど腹に据えかねたんだろう。
「それで、生徒会の力でなんとかできそうでしょうか?」
「なんとかといっても、どうすればいい? サイトの管理人を特定する方法などないぞ。何か手がかりはないのかね?」
「三日前に別の裏サイトの掲示板に美少女ランキングのサイトへのリンクが貼られ、パスワードはリアルの掲示板の張り紙に書いてあったそうです。そのときの掲示板の書き込みは、もう流れてしまっていました。あと、拓ちゃんはきのう陸上部の友達からこのサイトのことを教えてもらったそうです」
「掲示板サイトの管理人が分かれば、書き込んだ人間を特定できる可能性もあるが、そっちも裏サイトなのだろ? 一応あたってみるとしても、難しいな。ほかにはないか?」
そう言われて困ってしまった。生徒会に相談すればたちどころに解決するなどと期待してたわけじゃないけど、高校生の力でどうにかできることじゃないのかもしれない。
あたしが答えられないでいると、会長は腕組みをして、
「アプローチを変えてみようか。管理人が教師という可能性もなくはないが、おそらく晴嵐の生徒だろう。その人物像をプロファイリングしてみるのだ」
「犯人は男子生徒だと思います」
「女子生徒を除外する理由は何かね?」
「こんなことをするのは男子に決まってます」
女子なら『貧乳はステータスだ』とは書かない。
いつの間にか、会長の目から怒りの色が消えていた。いまは獲物を追うハンターの目だ。武器は知性と女の勘。会長はその両方を持っているという気がした。
「たしかに、きみの言うとおりだな。このサイトで使われている言葉からすると、おそらく女子に縁のないオタクっぽい男子だろう」
「そう思います。あと、それなりにコンピューターに詳しい人じゃないでしょうか」
美少女ランキングのページはただケータイサイトのテンプレートに沿って作られただけには見えなかった。三ツ沢さんの話では、パソコンからはアクセスできないようになっているそうだ。情報の授業しか受けていない程度の人が作れる内容じゃないと思えた。
「あとは掲載されている写真だな。何か気づいたことはなかったかね?」
「うーん、そうですね」
あたしは会長のとなりに肩を寄せた。ケータイのちいさな画面をふたりして覗く。会長が一位の子から順番に専用ページに載せられた写真を表示させた。
「小川さんと真木瑠璃先輩のは雑誌をケータイのカメラで撮ったように見えます」
「そうだな。活字が見えているし、かすかにページのたわみも判別できる。校内で撮られた写真もあるようだが少ないな。わたしの写真は校内で撮られたものばかりだ。実際、よく隠し撮りされているのは気づいていたが、撮影していたのはいつも女子だった」
「ほかの子はみんな隠し撮りされたものですね」
「この写真だが――」
と、会長はあたしを撮った写真の一枚を見せて、
「同じ場所、同じアングルで撮られた写真がどの女子のページにもあるぞ」
言われてみればそうだった。屋外で撮影されたもので、やや上から見下ろすような角度だ。小川さんや真木瑠璃先輩にも同じ構図の写真があった。
「これは校舎前、ちょうど下駄箱のあるあたりだ。おそらく登校してくる女子生徒を待ちかまえていて、離れた場所から隠し撮りしたものだろう。このアングルで撮影できる場所というと――」
「文化部の部室棟。たぶん三階の窓ですね」
あたしが答えると、岡野会長はにやりとした。
[援交ダイアリー]
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