則夫さんが大きくため息をついて、ベッドに腰を降ろした。そのままがっくりと肩を落として、片手で頭を支えた。
レオくんがあたしを睨んだ。
「奈緒美さんももうわかったよね? ノリちゃんはゲイなんだ。すごくモテたんだよ。ライバルは多かったけど、ノリちゃんはぼくを選んでくれた。ぼくたちはすごく幸せだったのに。奈緒美さんが色仕掛けでノリちゃんを誘惑するまで」
「そんな……」
「ノリちゃんが女性に免疫がないのをいいことに、女房気取りで好き勝手してたけど、それもこれまでだ。ノリちゃんだって、ただの興味本位で女のひとを試してみただけなんだよ」
「レオくん、あたしのこと出会う前から好きだったって言ってたのに。あたしと知り合うために理紗子に協力を頼んだって言ってたのに。ぜんぶウソだったの? あたしを騙してたの?」
「ぼくをこの部屋に連れ込んだのは奈緒美さんのほうですよ。若い男とセックスしたいばっかりに、結婚してるくせにご主人の留守中にぼくを招いたんです。ノリちゃんを裏切ったんです。それなのにぼくを責めるんですか?」
返す言葉もない。
レオくんの言うとおり、あたしは夫を裏切った。
何をされても仕方がない。
やっぱり離婚かな。
そんなのやだよ。
急にこみ上げてくるものがあって、あたしは嗚咽を漏らした。涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
「ノリちゃんだって勢いで結婚したものの、奈緒美さんには興味なくなってたんでしょ。だから、セックスの回数だって少ないし、淡白だったんだよ。奈緒美さんもノリちゃんとのセックスは物足りなかったって言ってたし、無理して夫婦でいてもお互い不幸になるだけだよ」
その言葉に、うなだれていた則夫さんが顔をあげて、あたしを見た。
「俺に抱かれるのはイヤだったのか?」
そんなことない。
なんでそんなこと言うの?
あたしは震えながら、ぶんぶんと首をふった。
「もう奈緒美さんの出る幕じゃないんですよ」
そう言いながらレオくんは則夫さんの横に腰を降ろした。則夫さんをいたわるようにそっと手を伸ばす。則夫さんがレオくんを見た。レオくんがうるんだ眼差して則夫さんを見つめて、顔を近づけた。
あたしは悲鳴を飲み込んだ。
則夫さんとレオくんがキスしてる!
レオくんは目を閉じて則夫さんの首に両腕を回し、もがもがと舌を絡ませている。則夫さんも抵抗していない。それどころかレオくんの腰に手を添えて、自分からレオくんの唇を吸っている。
ディープキス!?
あたしはふたりから目を離すことができなかった。こんなの見たくないのに。でもそれは男どうしのキスが気持ち悪いからじゃない。ハンサムでたくましい体の則夫さんと中性的な美貌のレオくんが全裸でキスしている光景は、とても美しかった。だから、あたしは自分の入り込む隙間なんてそこにはないように思えたんだ。
[新婚不倫]
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